【志賀貢 男の羅針盤】

【男は終生、闘争心を失ってはいけない】男性の脳は、母親のお腹にいる胎児の時代から赤ん坊の頃までに、男になるための洗礼を受けます。大量の男性ホルモン(アンドロゲン)で、一時期、脳はホルモン漬けになります。これをアンドロゲン・シャワーと呼んでいます。この生理現象によって、男性の脳細胞には闘争心が植えつけられていきます。それは、男が生物のオスとしてメスを獲得して子孫を繁殖させるための自然の摂理でもあるのです。

【死ぬまで闘争心を持ち続けるのが男の宿命】動物は、繁殖期になるとパートナーを獲得するために、オス同士が命をかけて戦います。人間は、大脳の理性の座がコントロールしていて、動物並みの争いは起こしませんが、それでも適齢期には、恋心のために、仕事も手につかなくなることを多くの男性は経験してきているはず。そうした性欲を維持しているのが、男性ホルモンのアンドロゲンなのです。

 成人になると、アンドロゲン・シャワーは起こらなくなりますが、その代わり、睾丸から分泌される性ホルモンが脳細胞に働きつづけて、男らしさを維持しようと努めています。男は、この闘争心に支えられて、恋や結婚だけではなく、仕事にも命をかけて邁進できるわけです。この闘争心が失われると、男の寿命に陰りが見え始めてきます。

【病気に打ち勝つためにも闘争心は大切に】大病を患って入院している患者さんを見ていると、闘争心がある人とない人では、闘病生活に大きな差が出るように思えます。今でも私の記憶に残っている男性患者がいます。

 彼は肺と脳に腫瘍がありましたが、決して病に負けませんでした。朝のオシメ交換の時間になると、若い看護師が悲鳴をあげながらナースステーションに飛び込んできます。様子を見に行くと、立派過ぎるほどの力強い姿を見せて、朝立ちをしているのです。大病を患っていると思えないほど、下半身に若々しい力がみなぎっている65歳でした。彼は、それから半年ほど入院していましたが、病状が安定して退院し、介護施設へ移っていきました。今でも、彼の闘争心とパワーには感服しています。

 ☆しが・みつぐ 北海道生まれ。医学博士。昭和大学医学部大学院博士課程を卒業。臨床医として診療を行うこと50年超、現在も現役医師として日々患者さんに接している。文筆活動においてもベストセラー多数。性科学の第一人者にして、近年は高齢者の臨終や性に関しても健筆をふるう。美空ひばり「美幌峠」「恋港」などの作詞も手掛けた。