大型連休も終わってしまい、次の夏休みまで先が長い。何よりコロナ禍も続いているとあって、どうしても気分が落ち込んでしまう――。そこで前回に引き続き「脳科学者が教える『ストレスフリー』な脳の習慣」(青春出版社刊)を著した医師・脳生理学者の有田秀穂氏(73)にストレスフリーにつながる生活習慣について詳しく教えてもらおう。

 ――幸せホルモンの一つであるセロトニンを増やすためにはウオーキングが大事なんですよね

 有田秀穂氏(以下有田)おさらいになりますが、セロトニンは脳内にある神経伝達物質であり、私たちの精神状態を健やかに保つという重要な役割を果たしています。そして、セロトニン神経を増やすには「太陽の光を浴びる」「適度な運動を行う」「周囲の人と楽しく触れ合うこと」が大事です。そこで適度な運動としてウオーキングを推奨しました。

 ――ひたすら歩けばよいのでしょうか

 有田 サラリーマンの方などは、よく「通勤時のウオーキングを活用したい」とおっしゃるんですが、それは環境を選ばないとほとんど効果がないんです。

 ――どういうことでしょう

 有田 セロトニンを活性化させるためには「集中」がポイントになるんですね。そのため、たとえばビジネス街など、ビルの看板が見えたり、いろいろな情報が目に入ってくるような環境では、いくら歩いてもセロトニンが分泌されないんです。少し朝早く起きて、人通りがあまりないところ、公園とか水辺を30分程度歩くことをお勧めします。

 ――その他にセロトニンを増やす生活習慣はありますか?

 有田 朝日を浴びながら朝食をしっかり取る。これも立派なセロトニン活性のためのリズム運動になります。ヨガ、太極拳やラジオ体操、スクワットなどもいいですね。共通しているのはすべてリズミカルな運動が含まれていること。朝イチでこのような運動を行うとセロトニンが増え、1日の元気がもらえます。頭もスッキリするし、気持ちもポジティブになる。自律神経的にも体が動く状態になりますから、そうやって1日をスタートさせるというのが一つの方法。

 ――気分が落ち込んでいる時にも良さそうですね

 有田 また「涙」もうまく活用してもらいたいです。これは人間だけが流す涙、いわば共感の涙と言えます。たとえば、松山英樹さんのマスターズ制覇、池江璃花子さんの白血病からの復活など、他者に共感して流す涙というのはオキシトシンが活性化されます。オキシトシンについて少し説明しますと「愛情ホルモン」「癒やしホルモン」ともいわれ、これまでは出産時や授乳時に母親から分泌されるホルモンとして知られていましたが、最近では老若男女問わずどんな人でも分泌することがわかりました。

 ――確かに涙を流すとすっきりします

 有田 共感の涙がトリガーになってストレス神経が鎮まるためと考えられます。交感神経から副交感神経に切り替わる、結果として癒やされるわけです。そのため定期的なストレス解消のためには日頃から自身にとって“泣ける映画”をチョイスしておくのもお勧めです。オキシトシンについては「人との適度な触れ合い」でも活性化されるので、コロナ禍で人と会うことが制限される中とはいえ、オンラインの会話や、マッサージなどを活用してもいいでしょう。

 ――ストレスを減らすためにこれらのホルモン分泌が大切なんですね

 有田 今の状況から見ると、感染の拡大が収まれば以前のような生活に戻れるかというとそう簡単にはいかないのではないでしょうか。生活様式も変化していく中で、日頃からセロトニンやオキシトシンを増やすための生活習慣をぜひ意識して取り入れてもらいたいと思います。

 ☆ありた・ひでほ 医師。脳生理学者。1948年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事。「セロトニン研究」の第一人者であり、東京・上野でメンタルヘルスケアをマネジメントする「セロトニンDojo」の代表も務める。