長寿のカギを握る「奥歯」 神奈川歯科大・山本龍生教授に聞くオーラルケアの重要性

2021年04月11日 10時00分

オーラルフレイルのセルフチェック

 人生100年時代、「歯の健康」を保つことが寿命を伸ばすばかりか、認知症予防にもつながるとわかってきた。特に鍵を握るのは奥歯だという。「ボケたくなければ『奥歯』は抜くな」(青春出版社)の著者で、神奈川歯科大学大学院歯学研究科教授である山本龍生医師に聞いた。

 ――直接的なタイトルが印象的でした、改めて奥歯の重要性を教えてください

 山本龍生教授(以下山本)奥歯とは歯列の奥にあり、主に食べ物をかみ砕いたり、すりつぶしたりする役割があります。中でも重要なのは、親知らずを除く、上下左右2本ずつある大臼歯の存在。実際に大臼歯が1本なくなるだけでものをかみ砕く能力が40%も低下するといわれています(今回の記事中で記す「奥歯」=大臼歯とします)。

 ――具体的に奥歯を失うことで起こる健康被害とは

 山本 まず奥歯は他の歯より大きく作られており、かみ合わせを安定させる機能があります。人間は二足歩行で重い頭を支えるために、奥歯がきっちりかみ合うことで下あごをしっかり頭の骨に固定し、体のバランスを保つことができています。逆に奥歯を失い、かみ合わせが悪くなると体のバランスを保つことが難しく、転倒しやすくなります。

 ――他の影響は

 山本 奥歯を失うとかみ砕く能力が著しく低下することで消化器官に過度な負担をかけてしまう、さらに本のタイトルにもつけた“ボケる”ことにつながります。

 ――どうしてそうなるのでしょうか

 山本 奥歯と認知症との関連について考えられる要因は3つです。まず「奥歯でかまないと脳への刺激が減る」。奥歯を使ってよくかんで食べると歯根の周りや頬の筋肉が刺激され、これらの刺激は神経を通じて脳に伝わります。この動きによって脳の血流も良くなり、脳細胞が活性化される仕組みです。次に栄養の問題があります。奥歯がないと摂取できる食べ物も限られてしまう、具体的に言うと柔らかい食べ物ばかりを好むようになってしまいます。そうなるとビタミンやミネラルなど認知症防止のためにも必要な栄養素が不足してしまい、結果として認知症になるというパターンです。

 ――奥歯がないことでそこまで複合的に不具合が起こるとは

 山本 最後が、奥歯をなくす最大の原因といわれる歯周病菌の存在です。奥歯はなかなかケアが行き届かないこともあり、歯周病になりやすく、歯周病になると歯茎が慢性的な炎症状態を起こします。このときに生み出される炎症性サイトカインといわれる物質や歯周病菌の毒素などが血管によって脳に運ばれることで様々な悪影響を及ぼし、認知症を引き起こす原因になることが分かってきました。

 ――怖いですね

 山本 それだけではありません。歯周病菌は血液を固める作用があるため、血栓が脳や心臓に運ばれることで脳梗塞や心筋梗塞のリスクも高めますし、口の機能が低下することで話しづらくなってコミュニケーション能力にも影響を及ぼします。全ては口腔環境を整えることで改善されるため、早めに目配りをしたほうがいいでしょう。

 ――どのようにチェックしたらいいでしょうか

 山本「歯磨きをすると歯茎から血が出る」「歯茎が赤く腫れることがある」「歯がぐらぐらすることがある」「硬いものがかみにくいことがある」「現在たばこを吸っている」などのどれかに当てはまれば歯周病になっている可能性があります。また、奥歯が失われると口の機能も低下し、「オーラルフレイル」と呼ばれる状態に。特にこのコロナ禍で家に閉じこもる人が増えたことで、より歯と口の健康に関しての状況は悪化しているようにも感じられます。気になる方はオーラルフレイルのセルフチェック表(別表参照)などもご活用いただければと思います。

 ☆やまもと・たつお 神奈川県歯科大学大学院歯学研究科教授。歯学博士。岡山大学歯学部卒業後、米国テキサス大学客員研究員、世界保健機関(WHO)インターンなどを経て、現職。歯・口の健康と認知症やうつなど全身の健康との関連を研究、調査する予防歯科学の第一人者。

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