【なんてったってリハビリ! もしもに備える!基礎知識と最新事情】病気やケガから復帰するためにリハビリを続けている人は多いが、自宅で行う“在宅リハ”には課題もあるという。医療ライターの熊本美加氏が取材した。

 私がリハビリ病院を退院した時、担当だった作業療法士の大場秀樹さん(東京都リハビリテーション病院)は「自宅に帰ってからが、本当のリハビリのスタートです」と言っていました。

 病院でのリハビリが自宅に戻ってから生かされているか、その人がその人らしい人生を送れているか。「その後を見届けられないのが、回復期の作業療法士としてもどかしいところ…」とも話します。入院中のリハビリで獲得した機能が、実生活で生かされているかどうかを訪問リハビリテーションに引き継いで確認する場合もあります。

 大場さんに入院リハ後の在宅生活での課題を聞きました。ありがちなのは、迎える家族による「一人では何もできない人、心配だから手伝ってあげる人」といった扱い。せっかく病院での日々のリハビリで500メートルは自力で歩けるようになったのに、家で何もすることがなく、家族が危ないからと外出を禁止してしまう。このようなケースではリハビリは水の泡になってしまいます。逆に、入院中は元気がなくてふさぎ込んでいた方が、家に帰ったら母親としてご飯を作る役割を果たそうと頑張って、少しずつ自分らしさを取り戻し、元気になっていくケースもあるといいます。

「突発的な病気で人生が狂ってしまい絶望的な苦しみを味わっても、自分の役割や、やりたいことが明確で上手に対処・対応できる方は、どんな障害があっても絶対這い上がっていきます。リハビリに取り組んでも障害が残っている方が圧倒的に多いのは事実ですが、障害を持っていても、工夫すれば自分らしく生きていけます。周りに頼ればできるということも、本人はもちろん周囲の方も学んでいけば、庇護するだけではなく切れ目のない在宅リハを続けていけると思います」(大場さん)

 リハビリでは体だけでなくメンタルケアも重要な要素だということも忘れてはいけません。

「リハビリを怠ると体が弱って、フレイル(虚弱)状態が進行すると要介護になってしまうリスクが高まります。虚弱状態で、さらに社会的なつながりがないと、ドミノ倒しのように一気に崩れてしまう方が多い。健康なうちに、社会的な交流、家と職場以外のコミュニティー、自分の居場所、出番や役割を持っておくこと! 高齢者で一人黙々と筋トレをやっているより、お茶飲み友達と毎日おしゃべりしているだけの人のほうが健康なのです」(大場さん)

 フレイル予防の参考になる「東京フィフティ・アップBOOK」という東京都が作成した冊子があります。これは主に50代・60代のこれから高齢期を迎える世代に仕事や趣味、社会貢献活動などのライフプランを考えるためのガイドブック情報。「50代のうちに地域デビューしておこう」「もしも家族が突然倒れた時のフロー」「健康寿命を延ばすにはフレイルを知ることから」など情報満載。いつ病気やけがが襲ってくるかわからない、そしてコロナ禍の今こそ、10年後、20年後の自分のために手に取ってほしいです。

 ☆くまもと・みか 医療ライター。昨年、電車内にて心肺停止で倒れ救急搬送。幸運にも蘇生したが、低酸素脳症による高次脳機能障害でリハビリを経験。社会復帰後、あまり知られていない中途障害者のことやリハビリの重要性を発信中。