【ココロとカラダのニンゲン行動学】鳥には普通、ペニスがない。オスとメスは総排せつ腔をくっつけて交尾し、ものの数秒で終了する。

 ペニスがあるのはカモのような水鳥で、しかもらせんを成している。

 なぜらせん状なのか。この件について研究したのが、鳥研究の大御所学者、イギリス・シェフィールド大学のT・バークヘッド氏らだ。

 彼らは16種の水鳥のペニスの長さと、らせんの回転数を調べた。すると、レイプが頻発する種ほどペニスは長く、らせんの回転数も多い。どうやらレイプのために、そのようにペニスが進化したようだ。

 とすれば、メスのほうも何か対抗策を取っているだろう。実はメスの膣はオスのペニスの長さに合わせているが、らせんの向きは逆方向なのだ。オスにとってペニスは普通、挿入しにくい。しかしメスがオスを受け入れ、膣の筋肉を緩めたときのみ挿入できるというわけだ。

 これとは別の事情から“ペニス”を進化させた鳥もいる。アフリカにすむ、アカハシウシハタオリだ。とはいえ、総排せつ腔に棒状の器官がくっついているだけで、ここを精液が通るわけではない。偽のペニスなのだ。

 やはりバークヘッド氏らのグループの研究によると、オスは平均で30分近くも交尾し、偽のペニスをメスの総排せつ腔にこすりつけて刺激。最後には羽をばたばたさせ、体を震わせ、足の筋肉がけいれん。オーガズムに達する。

 なぜこのような長く、念の入った交尾をするのだろう? 実はこの鳥は、たいていは2羽のオスが協力してマンションのような巣を作り、各部屋にメスが1羽いる。

 メスはどちらのオスとも交尾するが、他の巣のオスと交尾することもある。そのように精子競争(複数のオスが卵の受精を巡って争うこと)が激しい状況では自分の精子をいかにメスの体に保持させ、自身の精子で受精させるかが問題だ。そのために自身とメスを刺激しながら長時間交尾するのだという。

 人間の交尾時間も霊長類では長く、ペニスは長さも太さも霊長類一だ。では精子競争の激しさも一番かというと、そうではない。ペニスが大きく、先に返しがあるのは、他の男か、古くなった自分の精子をかき出すためなのだ。

 ☆竹内久美子(たけうち・くみこ)京都大学理学部卒業後、同大学院で日高敏隆氏のもと、動物行動学を学びエッセイストに。「そんなバカな! 遺伝子と神について」(文春文庫、及び電子書籍)で講談社出版文化賞科学出版賞受賞。最新刊「フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス」(文春新書)が発売中。