【ココロとカラダのニンゲン行動学】 新型コロナの影響もあるのだろうか、近所の2つのスーパーが現金の支払いを機械に任せるシステムに変えた。

 かつてはおつりを手渡しされ、しかも手を軽くタッチされていた。手に限らず、体に触れられることが嫌な私は、機械での支払いに変わり、ほっとしている。

 しかし普通人々は、特に女性はタッチされるとむしろ好感を抱くようだ。

 1992年のこと、イスラエル・テルアビブ大学のJ・ホーニク氏は、こんな実験をした。

 スーパーのパート従業員4人(女性)が、新製品の販売コーナーで、スナックを客に試食してもらう。もし客が試食した場合にはクーポン券を渡し、その製品を買ったら、レジで割引してもらえるようにする。

 このとき客が男か女か、上腕部を軽くタッチするか否かで4つのグループをつくる。その様子を観察者が記録していくのだ。

 すると男性のうち、タッチされた58人中45人が試食した(77・6%)。タッチされないと、48人中29人しか試食しなかった(60・4%)。

 女性はもっとその差が表れ、タッチで59人中54人が試食(91・5%)。タッチなしで52人中36人が試食(69・2%)。

 購入となると男女ともに、またタッチありなしに関係なく、それぞれ10~12人くらい減る。タッチでは男性の56・9%、女性の71・2%が購入。タッチなしでは男性の39・6%、女性の46・2%しか購入しなかった。

 ともあれ、購入にまで至った確率が最も高いのは、タッチされた女性であり、最も低いのはタッチされなかった男性だった。タッチされなかった男性でもクーポン券につられ、4割近くが購入するとは、イスラエル人はノリがいいようだ。

 ともあれ、こうして導かれる結論は、男女ともにタッチされると試食にも購入にも効果があるということ。そしてタッチの効果は女性のほうが男性よりもあるということ。タッチがない場合には、試食も購入も、男性と女性で差がないということである。

 こうしてみると、おつりの手渡しの際の軽いタッチの意味が分かった気がする。あれは「またご来店ください」の意味だったのだ。

 ☆竹内久美子(たけうち・くみこ)京都大学理学部卒業後、同大学院で日高敏隆氏のもと、動物行動学を学びエッセイストに。「そんなバカな! 遺伝子と神について」(文春文庫、及び電子書籍)で講談社出版文化賞科学出版賞受賞。最新刊「フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス」(文春新書)が発売中。