【ニンゲン行動学】自然の見える部屋で育つ子には自制心が備わる

2020年10月11日 10時00分

緑が見える場所と見えない場所ではどんな差が出る?

【ココロとカラダのニンゲン行動学】行動の裏には心理があり、ニンゲンは心理があるから行動する――本紙連載でおなじみの動物行動学者・竹内久美子氏がお届けする新企画のスタートです。

 以前、自然の見える病室にいると、外科手術の治りが早く、痛みも少ないという研究を紹介した。この研究が1984年のこと。

 その後、自然には他にも様々な効果があることが分かってきたが、子供の心、特に自制心に影響を与えるという研究がある。

 米国・シカゴにはRTH(ロバート・テイラー・ハウス)という、貧困層向けの28棟からなる、高層マンション群があった。住人のほとんどがアフリカ系だ。62年に建設され、老朽化のために2007年に取り壊されたが、ある研究が行われたことでよく知られている。

 建物と建物の間には、初めこそ緑が均等に植えられていたものの、手入れが不十分なせいで窓から見える緑に差が表れるようになってしまった。

 そこでイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のA・F・テイラー氏らは02年、12棟に絞り、2階から4階に住んでいる子供に対し、3種の自制心に関するテストを行った。「集中力」「衝動の回避」「満足の遅れ(目先の小さな報酬か、後の大きな報酬を好むか)」だ。

 集中力については、例えば指定された7、4、8、0を発音した後、0、8、4、7と逆の順に答えられるか。これを2文字から8文字まで増やしていき、連続で2回間違える前に最も長く言えた文字数をその指標とする。

 衝動の回避については、一見したところどれも同じ形に見えるが、1つだけ微妙に違うものを含む6つの形からその1つを選ぶ。12回のトライで、正しいものを選ぶまでの間違いの合計。

 満足の遅れは、その子の好きなお菓子を選ばせ、十分な時間を待てば、大きい袋入りのものをもらえるが、そうでないとしたら小さい袋入りのものしかもらえないとする。実際にお菓子を手に持たせ、最大15分間のどこでしびれを切らして食べてしまうか、それまでの秒数だ。

 7~12歳の子供、男91人、女78人では、男の子は窓から見える緑と自制心に相関はなく、女の子にだけ表れた。

 なぜだろう? テイラー氏らによれば、男の子は学校から帰るとすぐに外に遊びに行くが、女の子は部屋にとどまって遊ぶ。だから女の子にだけ相関が表れたのだろうということである。

 自然が見える場所に住んでいても、実際にあまり見ないのなら“効果なし”なのだ。

 ☆竹内久美子(たけうち・くみこ)京都大学理学部卒業後、同大学院で日高敏隆氏のもと、動物行動学を学びエッセイストに。「そんなバカな! 遺伝子と神について」(文春文庫、及び電子書籍)で講談社出版文化賞科学出版賞受賞。最新刊「フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス」(文春新書)が発売中。

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