【生き様に活かす死者の声】「心不全」はあくまで結果 原死因の究明には解剖が不可欠

2020年08月18日 10時00分

【法医学者・佐藤喜宣の生き様に活かす死者の声】心不全は死因ではない!? 杏林大学医学部名誉教授の佐藤喜宣氏(71)に、法医学者の立場で「解剖によって明らかになる本当の死因」について語ってもらおう。

 芸能人や著名人の訃報記事で、死因は「急性心不全」と発表されていることがあります。しかし心不全は死因でも病名でもありません。死因とは、あくまでも死に至った“原因”だからです。

「不全」とは活動や機能が完全ではないことを意味しているので、心臓や肺が機能していないのは、死そのものの状態であり“結果”です。

 日本における死因分類の歴史は1875年の明治8年にさかのぼり、1995年からはWHO(世界保健機関)加盟国で疾病等の分類を共通化するものを適用したため、厚生労働省(当時厚生省)が死亡診断書の様式を改訂し現在の形式となっています。

 最たる変更は、死亡の原因欄に「疾患の終末期の状態としての心不全、呼吸不全等は書かないでください」と明文化されたことです。さらに「最も死亡に影響を与えた傷病名を医学的因果関係の順番で書いてください」ともあります。

 要するに死亡を直接引き起こした「原死因」を調べてくださいということです。

 2019年の死亡者数138万1098人の死因順位別では、悪性新生物(腫瘍)が約37万6000人と最も多く、心疾患(高血圧性を除く)約20万7000人、老衰約12万1000人、脳血管疾患約10万6000人の順になっています。

 心疾患といっても狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤など心臓に連結した血管の病気と、弁膜症、心筋症、心房中隔欠損症、心臓腫瘍などといった心臓そのものの病気があります。

 死因のわからないものを「心不全」と明記できなくなったことで、心不全を含む心疾患による死亡者数は、93年に約19万人だったところから94年には約16万人、95年には約13万9000人と減少しました。これは死因不明なものを心不全としていた事例がいかに多かったのかということを示しているとも言えます。

 原死因を突き止めるためには、解剖は不可欠です。死に至るまでには何かしらの原因が必ずあるはずで、特に通院歴や持病もない突然死のようなケースにおいては、ご遺族にとっては死因がわかるだけでも悲嘆のケアにもつながります。そのためにもあらゆる角度から死因を究明する必要があり、解剖によって死因となったであろうわずかな痕跡を探り、家族や周囲からの証言などから考えられる死因も推測する必要があります。

 私はこれまで、突然死に関する解剖の98%は死因を究明できたのですが、2%ほどは死因がわからないケースがありました。そういった時は、無念ではありますが「死因不詳」とするより他ありません。

 ちなみに18年に3番目に多い死因となった老衰は、高齢者が加齢現象によって他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ記入していいことになっています。老衰はあくまでも結果ではありますが、天寿を全うして亡くなられた幸せな旅立ちと言えるのではないでしょうか。

◆佐藤喜宣(さとう・よしのぶ)1949年、東京都生まれ。杏林大学医学部名誉教授。日本歯科大学、広島大学医学部客員教授。東京都と千葉県の児童相談所セカンドオピニオンも務めている。ドラマ「監察医 朝顔」の原作漫画の監修者でもある。