【生き様に活かす死者の声】死亡推定時刻を割り出す3つの項目

2020年06月23日 10時00分

【法医学者・佐藤喜宣の生き様に活かす死者の声】小説やドラマ、映画などでよく耳にする「死亡推定時刻」はどのように割り出しているのか。1万体以上の検案、5000体以上の法医解剖を担当してきた杏林大学医学部名誉教授の佐藤喜宣氏(70)に教えてもらおう。

 サスペンスドラマにおいて殺人事件が起こったシーンでは「死亡推定時刻」というキーワードがよく出てきます。

 死亡推定時刻は、ご遺体を検視した検視官が割り出し、法医学者が死因の特定とともに死亡推定時刻の確認も行います。

 検視官が死亡推定時刻を見極める項目は①死斑②死後硬直③直腸内温度の3つです。

 死斑は成人男性の場合、死後30分ほどでまだら(斑)に出てきます。成人男性は体重1キログラムに対して80ミリリットル、体内には通常約4~5リットルの血液が流れています。死後は血流が止まるので、この血液が引力によって下がり、皮下静脈と呼ばれる毛細血管に徐々に血液が入ることで皮膚が紫赤色や紫青色のような色調を呈することになります。

 上向きに倒れていれば背中、足の後ろ側、腕の裏といったところに死斑は現れてきます。その死斑の現れ方が、時間によって刻々と変化していくのです。

 死斑を目視できる状態となるのは、死後1~2時間の間です。死斑は毛細血管に血液がたまっている状態なので、触るとひゅっと逃げるように消えます。あおむけの状態で死後6時間たった人をひっくり返せば、背中に出ていた死斑が半分残って、体の前面に死斑が出てくるので、両面に死斑が現れる状態となります。

 ただ死斑が動くのは死後6時間程度たったころまでです。12時間たつと、死斑は指で押しても消えない状態となり、移動もしなくなります。

 死後硬直は、死後だいたい1時間ぐらいたってから筋肉が固まり始め、その結果、諸関節が可動できなくなります。

 基本的にはあご、首、肩といった具合に上から下に向かって固まっていきます。そして死後だいたい2時間ぐらいたつと、関節が曲がりにくくなっていき、6時間ほどたつと相当強く固まってしまい、12時間たつと、大人が渾身の力を込めないと曲がらないぐらいの状態になります。ちなみに寝たきりだった人の場合の死後硬直は逆で、下から上に向かって固まっていきます。

 死後硬直が最高潮に達するのは死後24時間たった時で、以降は硬いままの状態が続きますが、36時間ほどたつと、徐々に体全体が緩んでいく緩解(かんかい)という柔らかい状態になっていきます。我々の細胞は死後36時間たつと自爆装置が働いて、自己融解するのです。

 ステーキなどでもおいしいとされている熟成肉は、緩解となった状態の肉です。

 直腸内温度は、成人男性の場合は平均37・2度とされているので、平均気温が20度であれば、死後1時間ごとに0・83度下がるとされています。

 これら3点から、死後経過時間を数値化できるので、死亡推定時刻のおおよその見当をつけられるのです。

 (構成=福山純生)

☆佐藤喜宣(さとう・よしのぶ)1949年、東京都生まれ。杏林大学医学部名誉教授。日本歯科大学、広島大学医学部客員教授。東京都と千葉県の児童相談所セカンドオピニオンも務めている。ドラマ「監察医 朝顔」の原作漫画の監修者でもある。