【生き様に活かす死者の声】近年注目の「エンバーミング」 HIVで亡くなられた遺体に施術してウイルス不活性化

2020年06月16日 10時00分

【法医学者・佐藤喜宣の生き様に活かす死者の声】近年、注目を集めている「エンバーミング」について語ってきた杏林大学医学部名誉教授の佐藤喜宣氏(70)。遺体を保全するエンバーマーは、ウイルス感染に関する知識も持っているという。

 現代の日本では、全死亡の99%は火葬ですが、亡くなられた方全員を解剖するとしたら法医学者の数が圧倒的に足りません。

 2019年の死亡者数137万6000人に対して法医学者の人数は約130人。1人1年間で約200体ほどしか解剖できないとなれば、単純計算で約7000人の法医学者が必要となります。

 エンバーミングには「整える」「保つ」「守る」という3つの役割があるのですが、私がエンバーミングの裾野を広げていくことをライフワークとしている最大の理由は「守る」で感染症を防ぐことです。

 世界中を混乱させている新型コロナウイルスをはじめ、エボラ出血熱、HIVや炭疽菌といったバイオテロ等、世界でも最も危ないとされている感染者への対応方法を知っているエンバーマーの存在が絶対必要です。HIVで亡くなられたご遺体にエンバーミングを施せばHIVウイルスは活性を失うといったように、エンバーマーには知識があるのできちんと対応できるのです。

 実際、アメリカやカナダのエンバーマーたちはそういった知識を持って活動しています。

 日本で唯一エンバーミングを学べるのは、文部科学省に認定されている日本ヒューマンセレモニー専門学校のエンバーマーコースです。一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)の認定校で、エンバーミングの知識や技術を2年間で習得し、資格を取ることができます。

 エンバーマーコースの卒業生に話を聞くと「お体の保全・復元・修復等、その役割の中からお客様のご要望を実現できる素晴らしい技術だと思います」(平成24年卒業・女性)、「故人様とのお別れを、ご遺族から悲しみが抜けるよう、お手伝いさせていただく仕事だと思っています」(平成28年卒業・男性)といったように、誇りを持って仕事に臨まれています。

 感染症からご遺族を守り、ご遺体を整えて保つことによるグリーフケア(悲嘆のケア)という医学的な分野と精神的な分野の両方を満たすのがエンバーミングです。

 認知度はまだ低い職業ですが、現在は約200人のエンバーマーがご遺体に対する最期のプロフェッショナルとして活躍しており、今後ますます需要が増えていくと思われます。

 私は国の制度として法整備が急務になると考え、20年ほど前からライフワークとして取り組んでいます。19年度からは厚生労働省の研修事業として、エンバーマーに対して、より高度な知識と技術の習得を目標とした研修が行われています。

 (構成・福山純生)


☆佐藤喜宣(さとう・よしのぶ)1949年、東京都生まれ。杏林大学医学部名誉教授。日本歯科大学、広島大学医学部客員教授。東京都と千葉県の児童相談所セカンドオピニオンも務めている。ドラマ「監察医 朝顔」の原作漫画の監修者でもある。