【心肺停止から蘇り日記】低酸素脳症による高次脳機能障害

2020年05月16日 10時00分

【50代バツイチ女性医療ライター・心肺停止から蘇り日記】50代独身(バツイチ)の女性医療ライターが自らの体験を明かす前代未聞のコーナー。山手線内で心肺停止→復帰までの日々をつづります。

 心肺停止でぶっ倒れたのに生存できたのは病院に搬送される前の救命処置のおかげでした。特にAEDが効かない状態での心臓マッサージの継続が、脳へのダメージを最小限にとどめてくれたのです。

 それでも倒れてから人工心肺につながれるまでの約50分は、脳への酸素供給が滞ったわけで、脳細胞へダメージがありました。程度によっては、話ができないどころか脳死に至る可能性を家族が告げられるシビアな状態。ICUでは体温を32度程度にして、動物の冬眠のような状態で、疲労困ぱいした脳細胞を回復させる治療が行われたのです。

 深い眠りの中で、三途の川は見ていません。学祭が行われているらしい高校校舎。紅葉に染まった校庭。青空に流れいく飛行機雲。そんな静かな光景をずっと眺めていました。あれは亡き母からの何かメッセージだったのでしょうか?

 脳卒中の場合なら、血管がピンポイントで詰まったり破裂したりで、その部分の機能がやられます。私のような心肺停止の場合は脳全体が酸素不足になり、最初に記憶をつかさどる前頭葉が障害を受けやすいと言われています。

 実際、私は倒れる数日前に友人と温泉旅行に出かけていたのですが、写真を見ても思い出せません。ICUから普通病棟に移ってからの記憶も霧に包まれたまま。意識が戻った直後から「看護師がなってない」と文句を言い、見舞いに来た家族に「二度と来るな」と毒づき、体に付けられた医療機器を外そうと大暴れ。どれもこれも記憶にございません。

 怒りっぽくなる。記憶力、注意力が落ちる。段取りをつけて物事を遂行できなくなる。この3つの特徴的な症状で低酸素脳症による高次脳機能障害と診断されました。主治医から「一人暮らしに戻れるレベルじゃない」とリハビリ病院への転院を強く勧められましたが、私は「ノープロブレム、全部一人でできます」と激怒。障害があると自覚できず逆ギレして、多大なご迷惑をおかけしました。

 とにかく心臓疾患で脳に障害を受けた場合は一日も早く本格的にリハビリを開始するのが回復の決め手。発症2か月以内のリハビリ病院転院で、最大180日の入院までが保険適用になるので、症状が落ち着いたらボヤボヤしている余裕はありません。

 監守のような厳しい看護師さん、夜になると変貌する同室の患者さんたちとお別れし、新たな監獄に向かって旅立った私ですが、リハビリ病院では意外にもウキウキ入院ウオッチングが待っていました!(医療ライター・熊本美加)