【生き様に活かす死者の声】コロナ死亡者を“安全なご遺体”に 最後のお別れに必要なエンバーミング処置

2020年05月12日 10時00分

【法医学者・佐藤喜宣の生き様に活かす死者の声】新型コロナウイルスで亡くなった人と遺族がきちんとお別れするためには? 1万体以上の検案、5000体以上の法医解剖を担当してきた杏林大学医学部名誉教授の佐藤喜宣氏(70)が解説します。

 ご遺族にとって大切な人と最期のお別れをすることは、グリーフケア(悲嘆のケア)という面でも非常に重要です。それは新型コロナウイルスで亡くなられた方のご遺族にとっても同じです。

 米国やカナダはご遺体を無菌状態にして保全するエンバーミングを行った上で土葬するのが主流でした。近年は火葬するケースが増加していましたが火葬場は少なく、そこへ新型コロナウイルスによる死亡者数が急増したことで、火葬場待ちという状況が起きてしまい、冷蔵トラックに入れて一時保存したり、土葬するための土地を新たに整備したりして対処しています。欧州でも葬儀スタッフの感染防護服が確保できないため、アイススケートリンクを一時的な遺体安置所にするほどひっ迫しています。

 東京や大阪などの大都市でも、新型コロナウイルス感染症のさらなる拡大によって死亡者数が急増するような万が一の事態に備えて、米国や欧州同様に冷蔵トラックや冷凍コンテナを借りるなどといった準備も視野に入れておくべきです。そしてウイルスの活性がなくなるまでそこで一時保存しておけば、感染リスクのない安全なご遺体となります。ウイルスの活性がなくなるまでには日数が必要で、現在はおおよそ5日ほど必要とされていますが、正確ではありません。温度はできれば4~0度の間が望ましく、長く保存することにより、ウイルスの活性が衰えてきます。

 現段階では厚生労働省は病院から火葬場への直葬を推奨していますが、一方ではご遺族の心情に配慮した対応をとも明記しています。したがってもしもご遺族が強く求めるのであれば、保健所に届け出をした上でエンバーミング処置を行えば、最期のお別れを行うことはできます。ただその場合でもご遺族も感染防御態勢は必須で、感染防御に精通したエンバーマー(エンバーミング処置を行える資格を持った人)が常勤する葬儀社を選ぶ必要があります。

 悲嘆のケアは感染症だけではなく、大災害が起きた時にも必要となります。

 2011年、東日本大震災が起きた直後に福島県に入った時には、ご遺体を納体袋でプロテクトし、土中に埋めました。土中は約0度なので腐敗せずに一時保存できるからです。その後、火葬場が復活してからご遺体を火葬しました。

 阪神淡路大震災の時には、身元不明200体を預かり、180体はご遺族にお返しできたのですが、20体が身元不明のままでした。通常のエンバーミングは、脈管を通して溶液を流して無菌状態にし、腐敗を止める処置を施しますが、有事のため水が使える状況ではありませんでした。そこで米国およびカナダのエンバーマーと協議の上、納体袋に安定化二酸化塩素を染み込ませたポリマーを敷き詰め、そこにご遺体を入れてパッキングして密閉することで腐敗を防ぐ処置を取ったことで、全員ご遺族の元に返すことができました。

 これらの経験からも「葬儀崩壊」を起こさないために、エンバーミングの必要性を強く感じています。 (構成=福山純生)

☆佐藤喜宣(さとう・よしのぶ)1949年、東京都生まれ。杏林大学医学部名誉教授。日本歯科大学、広島大学医学部客員教授。東京都と千葉県の児童相談所セカンドオピニオンも務めている。ドラマ「監察医 朝顔」の原作漫画の監修者でもある。