【生き様に活かす死者の声】新型コロナウイルス 遺体の解剖は完全防備が必要

2020年04月28日 10時00分

【法医学者・佐藤喜宣の生き様に活かす死者の声】新型コロナウイルスで亡くなった人の解剖はできるのか? 1万体以上の検案、5000体以上の法医解剖を担当してきた杏林大学医学部名誉教授の佐藤喜宣氏(70)が語ります。

 新型コロナウイルス感染症が広がっていることで、解剖が必須となる異状死体が感染している可能性も出てきています。

 新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方の解剖は可能ですが、エボラ出血熱やペストと同様、一類感染症に対する完全防備が必要となります。

 感染の可能性のある細菌やウイルスが外部に漏れないよう解剖室内を陰圧にし、なおかつ細菌やウイルスが外に出ないよう排気部分にバイオフィルターをかけ、血液などを流さずにため、ためたものはアルコール、ホルマリン、次亜塩素酸ナトリウムといった殺菌・抗ウイルス剤を入れて、医療廃棄物として焼却する。こういった環境が整ったところでしか、解剖はできません。

 都内では東京都監察医務院、あとは病理解剖や法医解剖で感染症を扱うことのできる解剖室のみとなります。また通常の解剖時と異なることは、頭蓋骨を切って開頭する時にストライカーという電動カッターを使用しないことです。ギプスを切るときにも使われているストライカーを使用すると粉末が舞ってしまい、その粉末を吸ってしまうと空気感染してしまうので、肋骨を切って開胸する時もストライカーは使用せず、手ノコギリを使って空気感染を防ぎます。

 解剖後のご遺体は納体袋で包みます。全体が透明、もしくはお顔の部分だけが見える状態になっている納体袋もあるのですが、葬儀業界でこれを常備している会社はほとんどありません。感染防止のため気体も液体も通さない非透過性となっていれば納体袋として役割を果たすので、今後はお顔の部分だけでも見ることができる納体袋を用意することも必要です。

 1991年に厚生省(現厚生労働省)の依頼で「エンバーミング研究班」を立ち上げるまでは、医学界と葬儀業界との認識は密接ではありませんでした。

 当時は手袋をはめて葬儀を執り行っていると、ご遺族から死者への冒トクと受け止められてしまう風潮がありました。葬儀関係者の間では素手のままで対応していた地域もあったため、過去にはご遺体から結核に感染し、亡くなってしまった葬儀関係者もいました。今では警察も医療機関も手袋とマスクをして、ご遺体に対応していますが、これは95年に起きた地下鉄サリン事件以降のことです。

 中国では華中科技大学同済医学院の病理解剖チームが2月下旬に、新型コロナウイルスによる肺炎の死亡患者9人の病理解剖を行い「病変は、重症急性呼吸器症候群(SARS)と類似性がある部分と違う部分がある」と発表しています。日本でも解剖を行った場合のデータ情報は、世界の国々とも共有していくことが急務です。 (構成・福山純生)

☆佐藤喜宣(さとう・よしのぶ)1949年、東京都生まれ。杏林大学医学部名誉教授。日本歯科大学、広島大学医学部客員教授。東京都と千葉県の児童相談所セカンドオピニオンも務めている。ドラマ「監察医 朝顔」の原作漫画の監修者でもある。