病気になっても長生きできる人には、どのような共通点があるのか。そして、家族がやれることは?「1分でも長生きする健康術」の著者で、早期緩和ケアクリニック院長・大津秀一氏に話を聞いてみた。2000人の終末期患者に寄り添ってきた緩和医療医だからこそ分かることとは?

 ――大きな病を患うと本人も家族もパニックに陥りがちです。向き合い方で大事なのは、どういったことでしょうか

 大津秀一医師(以下大津):私で言えば“チーム大津”をつくってください、ということをお伝えしています。どういうことかと言えば、よくいらっしゃるのは、何でも自分でやろうとする患者さんです。自分の問題だから、とにかく人の手を借りないで自分でやる。ただ、それがあまり良くない。

 ――どうすればいいのでしょうか

 大津:とにかくいろいろな人を巻き込んで、自分のチームをつくっていくことが大事。例えば家族の中でも、「愚痴聞き役」「送迎役」「お金の管理役」など、それぞれの手を借りる。

 ――家族も積極的に役割を担うべきですね

 大津:はい。巻き込むという意味では、医療者に対する接し方も一緒です。

 ――医療者?

 大津:「先生に聞きたいけど忙しそう」と思うならば薬剤師さんや看護師さんで「この人はいろいろ教えてくれるから聞いてみよう」など、自分がこの状態のときには誰に頼ればいいのかというのを明らかにしていくのです。この問題はこの人、あの問題はあの人…と振り分けていくのが療養の秘訣じゃないかなと思います。

 ――でも、特に団塊世代などは、なかなか弱音を吐けない、人を頼れないといった世代でもあります

 大津:独身の高齢男性でも上手な方は上手ですよ。“あるべき男性像”から離れて、一見少し情けないような男性のほうが割と大事にされる傾向はある。なので私が声を大にして伝えたいのは「情けなくていい。積極的に自分を出そう!」ということ。我慢して、たけだけしい感じの患者さんよりも「もうダメだよ~、看護師さん助けて~」みたいな患者さんのほうが優しくされていて、結局は得なんじゃないかと思います。

 ――そういうものなんですね

 大津:ブログを書いて「これが嫌だった」などと自分の気持ちをオープンにするのも一つの手です。同じ立場の人が共感してくれるなど、いい循環を生むこともあります。

 ――家族や友人も、見守るだけじゃなく、そのような方向に促してあげたほうが良さそうですね

 大津:特に男性は「話を聞いてもらう」ということを軽視しすぎている気がします。つらいことをオープンにしてもっと話を聞いてもらうべきです。
 ――家族も聞いてあげるべき

 大津:とはいえ、友達や家族に言いづらいこともあります。例えば男性に多い前立腺がんなども、長生きしている方は自分の意思をオープンにしている方が多い気がします。病院の人間には守秘義務があるので、院内ではどれだけ愚痴を吐いても大丈夫です。いろいろ相談していただければと思います。

【正しい健康情報の選別法】

 ――インターネット、テレビ、書籍など情報化社会の今、より良い健康情報の選別法はありますか

 大津:まず健康に関する情報と接するときに気をつけたいことはシングルイシュー、言い切り型の表現は疑ってかかったほうがいいですね。「○○を食べれば長生きする」「○○をすれば健康になれる」といった極端な言い方をする情報を信頼するのは、とりあえず控えたほうがいいでしょう。

 ――ちまたには、そんな情報があふれています

 大津:私たちの体はとても複雑で、それが乱れるときは必ずしも原因が一つではなく、複数の原因が重なり合って起こる場合もあれば、一つの問題が次の問題を起こすといった連鎖を起こすこともあります。

 ――単純化して語ることは難しい、と

 大津:まず、がんに関して言えば国立がん研究センターが「がん情報サービス」という一般の方向けのサイトを整備したので、そこから基本的な情報を取っていくのがいいかなと思います。医療においては“入り口”が大事です。最初に基本的な情報を入れずに怪しい情報から入ると、それが刷り込みになってしまう場合も多い。

 ――患者本人が間違った入り口からスタートしていたら家族や友人が正しい方に導いてあげないといけませんね

 大津:基本が何なのかを知っておくのは非常に大切です。緩和ケア・がん等の情報においても私が運営しているサイト(https://kanwa.tokyo)を見ていただければと思います。

☆おおつ・しゅういち=茨城県出身。岐阜大学医学部を卒業し、内科専門研修後、ホスピス、在宅、大学病院など様々な医療機関で2000人以上の終末期患者を診療。その経験を生かして執筆、講演活動を精力的に行う。現在は都内に日本最初の早期緩和ケア外来に特化したクリニックを開設。全国の患者に対しオンライン緩和ケア診療も実施している。