先月22日に北朝鮮の黄海北道で中国人観光客の一行が乗ったバスが橋から落ち、中国人32人を含む計36人が死亡、中国人2人がケガした交通事故は、不可解さに満ちている。27日に南北首脳会談が行われたためか、この事故に関する報道は尻すぼみになったが、会談後に中国では「事故の七不思議」が大々的に報じられ大騒ぎに。韓国や香港の一部メディアでも3日までに、犠牲者の中に、毛沢東の直系の孫で、中国人民解放軍の少将を務める毛新宇氏(48)の名があると報じられた。

 4月23日の中国外務省発表によると、事故は22日夜に発生。死者には北朝鮮人4人が含まれる。黄海北道には、世界文化遺産に登録された高麗王朝の首都だった開城遺跡地区などがある。

 その後に南北首脳会談があったためか、日本では続報がなくなった。しかし、中国では「事故の七不思議」が連日報道されている。

 まず、事故が発生した詳細な場所や経緯についての情報が明かされていないこと。しかも国のトップ2人が、前代未聞の行動に出ていた。ある中国人ジャーナリストはこう語る。

「事故発生当時、習近平国家主席と李克強首相は、すぐに詳しい情報を集めるよう関係機関に直接指示していたことが分かりました。中国人が海外で死亡する事故で、国家主席と首相が連名で直接指示を出すことなど、いまだかつてなかったことなのです」

 さらに事故翌日の23日、中国政府は外交部及び国家衛生計画生育委員会の専門医療グループを現地に派遣している点だ。

「中国人が海外(外国)で重大事故に巻き込まれた場合、国家旅遊総局が処理に当たることになっており、外交部が動くことは非常に珍しいことです」と同ジャーナリストは指摘する。

 日本でも報じられたように、23日には北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が在北朝鮮中国大使館を慰問し、負傷した中国人が入院する病院を訪れたことも七不思議のひとつだ。中国のネット掲示板では「観光客の死亡事故に最高司令官である金正恩がわざわざ見舞うのは不自然だ」との声が上がっていた。

 正恩氏は25日には平壌駅に足を運び、中国人の遺体や負傷者を中国に搬送する列車を見送った。病院での見舞いも含めて異例中の異例の対応と言えるだろう。

 北朝鮮が中国人の遺体を納めるために用意したひつぎにも謎が残る。同ジャーナリストは「公開された映像を見てみると、葬儀を行う際に使用される棺おけが使われていました。これは、すでに北朝鮮で葬儀を済ませていたということにほかなりません。しかし、その葬儀がなぜ北朝鮮で行われたのか、また、どのように行われ、誰が参加したのかは、今もって明らかにされていないのです」と疑問視する。

 最大の謎は、死亡した32人の身元が明らかにされていないほか、中国のどこに運ばれたのか、家族の元へ返されたのか、中国で葬式は行われたのか、お墓はどこか、などあまりにも多くのことが極秘になっている点だ。

 そんな不可解な点が多い事故だったが、ついに大きな進展があった。

 韓国メディアなどによると、今回事故に巻き込まれ死亡した犠牲者の中に、毛沢東の孫で人民解放軍少将の毛新宇氏の名があると報じられた。

 同ジャーナリストは「今回、事故に遭った中国人たちは、朝鮮戦争で犠牲になった中国義勇軍の親族などの関係者でした。朝鮮戦争(休戦)から65周年を記念し、中国義勇軍の兵士たちが眠る墓地を参拝した帰りに事故が発生しました。現在も、軍部や政財界ともつながりの深い人たちが多く犠牲となったため、また、外交関係に影響を及ぼす可能性があったため、北朝鮮と中国の政府は犠牲者名簿の公開を見送ったのです」と指摘する。

 毛氏は毛沢東主席の次男の息子で、2010年に最年少で少将となったが、七光であることを本人も認めていた。

 それでも、有名人であり、もし事故に巻き込まれていたとすれば、大ごとだ。そんな一部メディアの推測を打ち消すかのように、1日、SNSで毛氏が北京市中心部の北海公園を見物している写真がアップされ、日付まで付け加えられていた。しかし、翌日から毛氏関連のグループチャットができなくなった。

 情報が錯綜し、臆測が臆測を呼ぶ状態になっている。