松山刑務所大井造船作業場(愛媛県今治市)から8日夜、平尾龍磨受刑者(27)が脱走し、逃走容疑で指名手配されている。“日本一緩い刑務所”から、なぜ男は逃げ出したのか。

 平尾容疑者は8日午後6~7時ごろ、集会が行われる寮の談話室に姿を見せなかったことから、脱走が判明。1キロ余り離れた今治市内の住宅で乗用車と現金が入った財布などが盗まれ、午後8時半ごろには作業場から約100キロ離れた広島県尾道市向島の尾道大橋の手前で盗難車が見つかった。

 松山刑務所大井造船作業場は模範囚を収容する矯正施設で、窓には鉄格子がなく、塀もない。玄関は内側から開けられるという“緩さ”で知られていた。平尾容疑者は窃盗などで捕まり、初犯だったとみられる。

 車を乗り捨てた場所から約1キロ離れた2軒の住宅で財布から現金が抜き取られ、車のカギもなくなったというが、車は盗まれておらず、周辺からは「車をお借りします。一切傷つけません」との脱走犯とは思えない律義な手書きメモも見つかった。

 この緩い作業場を舞台にした脱走劇は後を絶たない。法務省によれば1961年の開所以降、今回を含めて17件20人の逃走事案があったという。一昨年8月には服役中の男(23=当時)が姿をくらまし、後に屋上にいるところを発見され、物議を醸した。

 いくら模範囚とはいえ、刑務所に服役していることに変わりはない。拘禁反応が出たり、家族、恋人に会いたいと思うのが人のさが。平尾容疑者にも逃げ出さなくてはならない“のっぴきならない事情”があったようだが、周辺住民にとっては、不安でしかない。いずれ捕まれば単純逃走罪(最高で懲役1年)や窃盗罪などが適用されることになる。