金正恩氏 電撃訪中の狙い

2018年03月29日 07時10分

人民大会堂で握手する習主席(右)と正恩委員長(ロイター)

 金正恩朝鮮労働党委員長とみられる北朝鮮からの要人が中国を電撃訪問し、北京で習近平国家主席と会談したと中国の国営メディアが報じた。北の最高指導者の訪中は2011年以来7年ぶりで、正恩氏の外遊としては初。南北、米朝首脳会談が控える時期に、正恩氏が動いた狙いを専門家に聞いた。

 4月末の南北、5月までの米朝首脳会談が予定されている中、北朝鮮が突然の中国訪問で世界をあっと言わせた。北朝鮮要人を乗せたとみられる特別列車が26日、首都北京に到着。人民大会堂で習氏と会談した模様で、中国国営メディアは28日、「正恩氏が習氏と会談」と報じた。

 正恩氏の訪中は11年の権力継承後、初の外遊となる。中国が国連安保理の制裁決議を履行したことから中朝関係は悪化していたが、これで事態は大きく動いた。

 電撃訪中の狙いについてデイリーNKジャパン編集長の高英起氏は「中朝間の関係改善が目的。それに尽きる」と話す。2つの首脳会談を控えている正恩氏にとっては、このタイミングしかなかったというのだ。

 中国だけが“置いてけぼり”になっている状況のまま、米韓との会談を進めていけば「中国が北朝鮮に対して影響力がないと見られる。ないがしろにされた中国がバカにされる」ことにもなりかねない。「本当はトランプ大統領に(先に)会いたくても、儀礼的にも中国を優先する必要があった」と高氏は分析する。

 一国の代表が初めての外遊先として選ぶ国は注目の的となる。

「一番をどの国にするか。くだらないことに見えるが、外交上の常識。儀礼を崩したら、正恩氏は習氏としこりを残すことになる。習氏としてもそんな事態は避けたいところだった」(高氏)

 米国も、中国に先行されたことに目くじらを立てるようなことはない。高氏は「トランプ大統領の顔に泥を塗るような行為ではなく、アメリカとしても中国が北朝鮮をコントロールしてくれた方がよい」と断言する。

 また、今回の首脳会談は中朝ともに実りのあるものになるとも。

「北朝鮮は経済分野の規制緩和を求めるだろう。一方、中国は核保有を許さないという立場。放棄までは求められなくても、核実験の凍結は求めていくのでは」(高氏)

 北朝鮮は経済的な苦境からの脱出。中国はアジアの主導権を対外的にアピールできるからだ。

 一部で根強く言われる「北朝鮮内部でのクーデターを見越した亡命」との観測に、高氏は「可能性は低い。脱北者は『軍部に力はない』と話している。正恩の政権を揺るがす動きはない」と否定する。同時にこの訪中による南北統一進展への影響も少ないという。

「連邦制などを模索していると思うが、統一は10~20年先の話。韓国の若者がとにかく北朝鮮を好きじゃない。若者にとっては70年もの間、別の国。統一が具体化すると韓国でものすごい反対運動が起きる」(高氏)

 今回の訪中劇でイマイチ存在感が薄いのは日本だ。北朝鮮が米中韓との関係を深める中、日本は拉致問題で前進したいところ。「言葉だけではない本気の解決に向けて、安倍首相の決断力が試されているのではないでしょうか」と高氏。

 日本の政府関係者は「安倍首相はトランプ大統領に拉致問題の重要性を理解してもらい、日米同盟の連携で正恩氏に解決を求める意向だ。政府内では安倍首相に政治生命をかけた電撃訪朝を期待する声もある。だが、いまの安倍首相では期待が薄い…」と話している。

 やることなすことうまくいく。まさに“無双状態”の正恩氏の高笑いが聞こえてくるようだ…。