権力者に甘いお国柄が生んだタイ「黒ヒョウ落書き」騒動

2018年03月16日 07時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】タイで今最もアツいキーワードが「黒ヒョウ」だ。発端は先月、地元ゼネコン最大手「イタリアンタイ・デベロップメント」のプレームチャイ・カンナスート社長が逮捕されたことだった。「社長は趣味のハンティングが度を越し、タイ西部のトゥンヤイ・ナレースワン野生生物保護区でシカやキジのほか、黒ヒョウを密猟した疑いで逮捕された。しかも黒ヒョウを食べていた」と、首都バンコク在住記者。

 現場はユネスコの世界自然遺産に指定されている希少生物の宝庫で、黒ヒョウはそのシンボル的存在。押収物はライフルや銃弾に加え、黒ヒョウの死骸もあり、そのむごたらしい姿が公開された。ワシントン条約の下、タイで黒ヒョウは厳重に保護されており、当然批判が殺到した。

 しかも、そのゼネコンが保護区に道路を通し、隣国ミャンマーと結ぶ計画をしていることも明らかになり、さらにタイ国民の怒りを買った。同記者は「ミャンマー側には経済特区として開発が予定されているダウェイがある。日本の政財界もダウェイに関わっており、タイ政府としても一大プロジェクト」と語る。

 だから“忖度”されたのか、社長は逮捕された身なのに警察高官からワイ(合掌)をされ、警察署で出迎えられた。その盗撮がネット上にアップされ「やはり権力者は何をしてもおとがめなしか」と国民をあきれさせた。

 社長は保釈金15万バーツ(約51万円)を払ってあっさりシャバに出た。加えて、建前上は公判を待つ身なのに、プライベートジェットでのバングラデシュ出張を裁判所や警察が許可したことで、タイ庶民はまた激怒した。

 このため、バンコク都心部のスクンビット通りなどには、黒ヒョウをモチーフにした落書きが次々と出現した。「バンコクは落書きが多く、そのほとんどが放置されているのに、黒ヒョウの落書きだけは警察がすぐに消して回っている。ただ、消したそばから新作の落書きが現れるから間に合ってない」と前出記者。

 街中だけでなく、黒ヒョウやこの社長をパロった落書きはネットにも氾濫し、一大ムーブメントになっている。また、靴メーカーが黒ヒョウを模した特製シューズを売り出したところ、アッという間に完売。その収益は、今回の社長逮捕劇で活躍した森林保護官に寄付されるという。

 騒動が広がった背景には権力者にとにかく甘いタイのお国柄事情がある。6年前には、日本でもおなじみのエナジードリンク「レッドブル」創業者の孫がフェラーリで警察官をひき逃げした死亡事故を起こし、逮捕されたが、すぐ釈放された。その御曹司は国外逃亡。世間の批判を受け、昨年、国際指名手配されたが、いまだ行方をくらましたままだ。「今回もどうせウヤムヤになる」と大方のタイ人はみている。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、4年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「海外暮らし最強ナビ・アジア編」(辰巳出版)。