北の歓迎ぶりの裏側は――。韓国の鄭義溶国家安保室長を代表とする特使団が5日、北朝鮮の平壌を訪れ、金正恩朝鮮労働党委員長と会談した。いがみ合っていた南北が、平昌冬季五輪を機に急接近。気づけば韓国の特使団は1泊2日で平壌を訪れ、晩さん会まで開かれているのだから「?」だ。なぜ南北がここまで接近を加速させるのか。専門家によると、その答えはドナルド・トランプ米大統領の「戦争OK!」の姿勢にあるというが…。

 韓国大統領府によると、特使団と正恩氏の会談は夕食を含めて4時間に及んだ。朝鮮中央通信によると、正恩氏は会談で「満足する合意」をしたという。

 韓国の文在寅大統領を南北融和に走らせたのは、紛れもなくトランプ氏だ。本紙でも再三報じているように、トランプ氏は“戦争したい病”で、米朝開戦は既定路線。軍事ジャーナリストは「戦争となれば米国の軍事産業は潤い、国際社会に“最強アメリカ”を見せつけることができる。新型兵器も飛ぶように売れる。トランプ氏は大統領の仮面をかぶったビジネスマン。こんなチャンスを逃すはずがない」と説明する。

 トランプ氏の本気度に韓国と北朝鮮が気づいたのは、今年に入ってから。一気に血の気が引いたことは容易に想像できる。威勢よくトランプ氏を挑発していた正恩氏も、いざ戦争となれば“斬首作戦”で真っ先に米軍のターゲットにされ、ひとたまりもない。韓国にとっても、朝鮮半島が火の海になるのはシャレにならない。

 そこで南北は、ひそかに半島有事を避けるためタッグを結成。正恩氏は平昌五輪に選手団だけではなく、妹の金与正氏を特使として派遣し、韓国は最上級のもてなしで、それに応えた。

 機運は敵対から融和へ――。今回の韓国特使の平壌訪問は、何ら異例なことではない。

「コリア・レポート」の辺真一氏は「完全に南北のデキレース。いつもの正恩氏ならば、訪問者と会うのは最終日。下手するとジラして、もう1泊させて、ようやく会うこともあった。それが今回は訪問初日に会談に応じるのだから、事前にスケジュールが決められていた証拠だ」と指摘する。

 特使団は文氏からの親書を正恩氏に手渡したといわれるが、辺氏いわく「中身は、ある程度は想像はできる」。

 米朝開戦を回避するのが最優先事項だから、トランプ氏が交渉のテーブルに着きやすいよう「正恩氏から『朝鮮半島の非核化』『ミサイル実験の凍結』に関する言質を取る。正恩氏も背に腹は変えられないので、リップサービスするだろう。それを手土産に今度は文大統領が米側と交渉し、米朝首脳会談に持っていく算段だ」(辺氏)。

 いわば文氏は正恩氏にいいように使われ、米朝間の調整・交渉役に当たっているというわけだ。

 ただし、こうした動きに“戦争したい病”のトランプ氏が応じるかどうかは不透明。米国は北朝鮮との交渉条件に「朝鮮半島の非核化」などを求めているが、北朝鮮側は「非核化は交渉の出口にしたい。この米朝間の隔たりを文氏はどうするのか。すべては彼の交渉力にかかっている」(前出の軍事ジャーナリスト)という。

 北朝鮮も北朝鮮で、ミサイル実験は凍結するが「ミサイル開発はやめない」という得意の二枚舌を繰り出し、文氏のハシゴを外す可能性がある。

「気づけば南北VS米国という図式に変わってしまった。正恩氏は文氏をいいように使っている」とは辺氏。

 米国側は南北の融和ムードを尻目に「北朝鮮がシリアに化学兵器の部品を密輸していた」ことをリークしたり、昨年2月に暗殺された正恩氏の兄・金正男氏の件をほじくり返して北朝鮮に新たな制裁を科すなど、国際社会に“開戦”の大義名分を問いかけている。

 事態は風雲急を告げている――。