楽しいはずのゲレンデが一瞬にして地獄と化した――。群馬・長野県境にある草津白根山の本白根山(群馬県草津町)が23日午前10時ごろ、噴火した。麓にある草津国際スキー場は大パニックに陥り、噴石などによる被害で、同所で訓練中だった男性自衛隊員(49)が直撃を受けて死亡、スキー客を含む11人が負傷した。気象庁は2014年9月に起きた御嶽山(岐阜・長野県境)の大噴火を教訓に「噴火速報」を導入したが、発令されなかった。ネット上で批判が集まるなか、専門家が語った速報を出さない理由とは――。

 本白根山の噴火で草津国際スキー場には噴石が雨のように降り注ぎ、直撃を受けたゴンドラの窓ガラスが割れ、中にいたスキー客2人が負傷。噴火による停電でロープウエーも停止。大勢いた乗客は、予備電源でなんとか山頂駅のレストハウスに退避した。

 スキー客ら約80人は、ヘリコプターや雪上車などで全員救助されたが、噴火の真っ最中に山頂に取り残される恐怖は、言葉にならないだろう。レストハウスの一部の屋根が噴石で突き破られたというからなおさらだ。

 同所で積雪地訓練を行っていた陸上自衛隊員も被害を受けた。陸自によると、訓練していた30人のうち8人が巻き込まれ、うち1人が死亡し、5人が重傷を負った。死亡したのは第12旅団の第12ヘリコプター隊所属の男性陸曹長だった。

 噴火による人命被害で思い起こされるのは、14年9月27日の御嶽山のケースだ。この時は噴火の予兆となる火山性微動を感知しておきながら、噴火警戒レベルは1のままで、警報に相当するレベル2~5に引き上げられることはなく、58人の犠牲者を出した。この教訓から気象庁は噴火後、直ちに注意喚起する「噴火速報」を導入したが、今回の本白根山での噴火に生かされることはなかった。

 この日、記者会見を行った気象庁の斎藤誠火山課長は、同日午前9時59分に火山性微動が発生し、約8分間続いたものの、噴火かどうかすぐに判断できなかったため、「出すチャンスはなかった」と噴火速報の発表を見送ったことを明かした。その後、気象庁は警戒レベルを3(入山規制)に引き上げた。

 ネット上では「速報を出していれば違った」「何のための速報なのか」と厳しい声も飛んでいるが、本白根山は長年休眠状態で、前回の噴火は約3000年前。専門家は「ノーマーク」「想定外」と口を揃え、監視カメラをはじめとした観測態勢も整っていなかった。ただ、草津白根山では1983年に噴火が確認されている。

 火山噴火に詳しい琉球大学名誉教授の木村政昭氏は、日本の噴火予知の構造的な欠陥について指摘する。

「おかしな話ですが、私も入っている日本火山学会の大前提は『噴火を予知することはできない』なのです。噴火予知は地震予知の数倍難しい。火山性微動が観測されたからといって、噴火につながらなかったケースもある。誤った情報を流せば、批判されるのは気象庁。噴火速報を出したくても“出せない”のが現状なのです」

 スキーシーズン真っただ中で“誤報”を流そうものなら、周辺の観光地への経済的なダメージは計り知れない。しょせん、気象庁もお役所仕事ということなのか…。かといって、指をくわえて見ているしかないのか?

 木村氏は「いまこそ噴火の中長期予測を活用するべき」と力説する。実は木村氏は15年に出版した「『噴火』と『大地震』の危険地図」(青春出版社)の中で草津白根山が近く噴火の危険があると警告していた。

「本白根山については、これまでの噴火周期や日本列島にかかる太平洋プレートの圧力を計算していけば、導き出せる。しかし国は短期予測重視で、中長期予測は進んで公開していない。噴火予知が不可能であるならば、せめて噴火の中長期予測を国民に知らせるべきではないでしょうか」と力説する。

 木村氏によれば、今回のような突発的噴火はいつどこで起きてもおかしくないという。

「最近気になっているのは伊豆半島ですね。周辺で地震の回数も増えており、警戒が必要です」

 日本には草津白根山を含め、活火山が111もある。「自然災害は対策のしようがない」ではなく、一人ひとりが情報収集して、万一の事態にも対処できるよう自己防衛する必要がありそうだ。