フィリピンで慰安婦像より重大な「技能実習生」問題

2017年12月22日 07時30分

【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】目隠しされ立ちすくむ従軍慰安婦像がこのほど、フィリピンで設置された。台座には「1942年から1945年まで続いた日本支配の時代に、日本軍に虐待されたフィリピン人女性を忘れない」と刻まれている。

 場所は首都マニラ中心部のロハス通りで、外国人観光客や日本人ビジネスマンも多いエルミタ地区やマラテ地区のすぐ近く。通りに沿ってマニラ湾を望む遊歩道が続く、市民や旅行者の憩いスポットだ。

 ただ「取材のため、像を探してみたが、周辺をパトロール中の交通警官もどこにあるのか知らない。何人かの警官が集まって相談し、ようやく『もしかしたら、あの像のことかな』とわかったほど」とは現地在住記者。像を見に訪れる人はなく、デモ隊がいるわけでもない。

「この像は、フィリピン国家歴史委員会という政府機関の一つが建てたもので、背後には中華系団体の献金があったといわれる。とはいえ、ドゥテルテ大統領が統治する大統領府は正式な表明なども出していない。日比関係を考慮し、問題には触れず、スルーの姿勢」(同)

 第2次大戦時、旧日本軍が現地で多大な損害と迷惑を与え、多くの人々が命を落とし、人権を踏みにじられた女性たちがいたのは歴史的事実だ。「でも今では、地元民の多くは過去の出来事として捉え、日本に対し、声高に抗議する動きはない。『忘れてはいない、しかし、許そう』という寛容の心がある」と同記者は指摘する。

 フィリピンというと、日本人の中高年には“夜遊び”のイメージが強く、慰安婦像と絡めて問題視されるのではないかという声も一部にある。マラテ地区には日本人向けのカラオケなども並ぶが、皮肉なことに「フィリピンで今、派手に遊んでるのは韓国人。日本人は駐在員も旅行者も経済的な問題もあり、以前ほど“肉食”ではなく、目立たなくなっている」(同)という。

 フィリピン国家歴史委員会の支援団体は今後デモを計画しているというが、現地報道はあまり大きなものではない。慰安婦像設置が日比関係に影を落とすことはないと考えられているが、前出記者によれば「それより研修生の問題のほうが深刻」という。

 日本は技能実習生の名目で外国人労働者を受け入れている。この制度が介護の分野にも拡大されることになり、ホスピタリティー精神のあるフィリピン人女性は日本の介護施設にとって貴重な人材だ。ただ、一部の職場で実習生を低賃金、重労働で酷使していることが、国際的な批判を浴びている。そんな劣悪な労働条件が待っているとなれば、フィリピン人も日本行きをやめてしまうだろう。

 フィリピンでは慰安婦像設置以上の問題として、むしろこちらを注視しているという。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、3年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「海外暮らし最強ナビ・アジア編」(辰巳出版)。