【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】カンボジアの最高裁が今月半ば、最大野党・救国党の解党を命じる判決を下した。党幹部118人の政治活動は禁じられ、カンボジアには今、野党が事実上存在しない。

 強権を発動しているのは30年以上君臨しているフン・セン首相(65)だ。「かのポル・ポト派にもともと属していたが、政治的対立からたもとを分かった。その後、ベトナムへ亡命し、ベトナム軍とともにポル・ポト派を追い落とし、以降は不安定な政局のカンボジアをずっと支配してきた」とは現地情勢に詳しい記者。

 日本の自衛隊も参加したUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)の活動後、治安回復と経済発展の基礎を築いた政治力を評価する声もあるが、長年のフン・セン独裁下で国の隅々まで汚職がはびこってしまった。カンボジア入国の際、ビザを発給する事務所の役人から金(賄賂)をせびられることもあるほど。

 国民の怒りが爆発したのは4年前の総選挙で、救国党をはじめとする野党が躍進し、フン・セン氏率いる人民党は大きく議席を減らした。しかも「実際は野党の方が得票が多かったはず。選挙に不正があった」という話が地元では根強い。

 来年予定されている総選挙は「いよいよ政権交代か」と思われており、フン・セン氏が危機感を強めるのも無理ない。

 9月には、政府に批判的な新聞社「カンボジア・デーリー」の脱税疑惑を突如指摘し、約7億円の追徴課税を求められた同紙は経営ができず、発行停止に。同月、米国系放送局「ラジオ・フリー・アジア」も首都プノンペンの支局を閉鎖させられ、国防に関する情報を外国へ売り渡していた疑いで記者2人が最近起訴された。

 そして野党解党。立て続けに反対勢力を弾圧するフン・セン氏は熱心なフェイスブックユーザーで、自分に批判的な書き込みをしたとしてこれまで逮捕者も出している。

 もともと父親が華僑で、フン・セン氏は「雲昇」という中国名も持ち、極めて親中的。カンボジアにとって中国は最大のスポンサーで、道路やダムなどのインフラ開発から不動産投資、観光開発まで幅広く投資している。プノンペンの街のあちこちには漢字の看板が。国際社会からどれだけ批判されようと、中国という後ろ盾があれば独裁し放題というわけだ。

 前回の総選挙では万が一の事態を想定し、軍・警察による警備が強められた。選挙結果に不満を持つ人々を警戒してのことだ。来年は民主主義がゆがめられた中での総選挙になるのは確実で、情勢次第ではカンボジアが再び暗黒の時代に戻ってしまうかもしれない。
☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め、3年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。最新著書は「海外暮らし最強ナビ・アジア編」(辰巳出版)。