ベトナム戦争反対を訴え、1967年に脱走した元米兵で著述家のクレイグ・アンダーソン氏(70)が「脱走成功」から50年後の節目を迎え、10~11月に来日して全国で講演して回った。戦時下のベトナムでも、世界平和を奇妙な形で求めた僧侶がいたことはあまり知られていない。

 教祖の故グエン・タイン・ナム氏は1963年、メコン川に浮かぶ鳳凰島に「ココナツ教」の本拠地を構えた。教義は「ココナツだけを食べ、ココナツミルクだけを飲む」というもの。信者は4000人いたとも、一説には1万人いたとも言われるが、教団は75年に政府によって解体された。

 カラフルで独特の形をした建造物が目を引く本拠地は、現在では観光地となってメコン川ツアーのついでに世界中から人が訪れる。入場料は大人1万ドン(約50円)。

 ナム氏はベトナム戦争の戦火が激しいさなか、南北の統一を訴えた。平和を実現するその手法も変わっている。猫とネズミを一緒に生活させたのだ。「『終生の敵同士でさえ仲良くできるのだから、ベトナム戦争も解決できる』と主張したけど、誰もピンとくる者はいなかった」(現地旅行業者)

 基本的には人畜無害な宗教だったが、奇抜過ぎるがゆえに政府から「カルト」だと目を付けられて、教祖は投獄され教団解体に至った。

 現地ベトナム人男性は「ココナツ教団は戦争を拒否した。だから、宗教に関心がなくても、戦争に行かないために入信した人が多い。信者の9割がそれ。みんなこっそりココナツ以外を食べていた」と話す。

「戦争当時、自分で右手の人さし指を切り落として、銃を撃てないようにして入隊を免れた者が多かった。それと同じ。政府も『頭のおかしな信者を軍に入れると統率が取れなくなる』と強制的に信者を徴兵することはなかった」(同)

 戦争終了後、教祖は宗教の再開を計画。だが、政府はそれを許さない。90年、連行しようとする警察と、引き留める信者に両手を引っ張られ、はずみで建物から落っこちて頭を打って死んだ。81歳だった。