安倍首相の危険なメディア戦略

2013年01月21日 10時00分

【藤本順一、上杉隆の言いたい放談】2013年1月19日掲載紙面から

 安倍晋三首相(58)が第1次政権時とは異なるメディア戦略を展開している。揚げ足取りと毛嫌いしていたぶら下がり取材をやめ、交流サイト「フェイスブック」や無料通話ソフト「LINE(ライン)」などネットを軸にした情報発信に出ているのだ。本紙「永田町ワイドショー」藤本順一氏、元ジャーナリストで公益社団法人自由報道協会理事長の上杉隆氏が、安倍首相のメディア戦略を占った。

 藤本:安倍首相は挫折から6年、メディアに対する不信感、恨みつらみも引きずっているようで、小泉純一郎首相(71)以来の1日2回のぶら下がり取材を原則やめてしまいましたね。

 上杉:やめて正解です。ぶら下がりは日本だけの独特の慣習で「朝ゴハンは何を食べたのか」と一国の首相に聞くことではない。

 藤本:上杉さんはセキュリティーの観点からもぶら下がり取材の危険性を訴えていましたね。

 上杉:9・11の同時多発テロ以降、国のトップに何の権限もない記者や、テレビのスタッフが近づける環境にあるのは日本だけ。日本の記者会見は世界で一番危険といわれていましたから。

 藤本:1960年、安保改定時の首相だった安倍首相のおじいちゃん・岸信介元首相(故人)が首相官邸で暴漢に太ももを刺され、オシッコ漏らしたことがありましたね。

 上杉:それに民放、NHK、新聞が輪番制でやっていた共同記者会見をやめて個別インタビューに切り替えたことにも大賛成です。各社は横並びではなく、独自インタビューができるよう競争すればいい。

 藤本:安倍首相はお気に入りの記者がいる産経、読売やNHK、TBSなどを優先して単独インタビューに応じている。だけど、テレビだと数字(視聴率)が取れるのはせいぜい政権発足直後だけだし、野田佳彦前首相(55)の政権末期は単独インタビューを売り込んでも相手にしてもらえなかった(笑い)。

 上杉:既存メディアとは別に安倍首相はフェイスブックやツイッターなどのネットツールを積極的に活用しています。オバマ米大統領(51)の側近チームが取ったスピン戦略にならって最先端を走っているつもりなんでしょうが、成人の日に始めた「ライン」はどうなんでしょうか。フェイスブックやツイッターは安全に管理できると確認されているが、「ライン」は韓国資本で新興のSNSです。それを官邸内で使えば情報が筒抜けになる恐れもある。

 藤本:前回の首相時には塩崎恭久官房長官(62)と市販のケータイでメールした内容が米の通信傍受システム「エシュロン」やロシア、中国にスパイされていた。

 上杉:オバマ大統領は就任後、それまで愛用していた携帯端末ブラックベリーのセキュリティーが確認できるまで1年間使わなかった。危機管理のイロハですよ。

 藤本:その「ライン」では「私が20歳のころははっきりとした夢や目的を持っていなかった」と新成人にメッセージを送っていた。国家機密じゃないからよかったけど、仮にも日本国の首相なんだからウソでもいいから大志を持った20歳であってほしかったね(笑い)。元秘書には初出馬の時に「落選したらラーメン屋がやりたい」と語っていたそうだから、これだって立派な夢だよ。

 上杉:夢かなわずに総理大臣になって、代わりに昭恵夫人(50)が居酒屋を始めたということですか(笑い)。

☆ふじもと・じゅんいち=1958年、福岡県生まれ。新聞、雑誌記者を経て独立、取材執筆集団「メディアフォーラム」代表。「建設業界・談合が崩壊する日」「永田町奇譚 もしニッポンの総理が東スポを愛読してたら…」など著書多数。本紙で「永田町ワイドショー」好評連載中。

☆うえすぎ・たかし=1968年、福岡県生まれ。テレビ局、衆院議員公設秘書、ニューヨーク・タイムズ取材記者、フリージャーナリストを経て、公益法人自由報道協会理事長。ミドルメディア「NO BORDER」代表。近著に森達也氏との共著「誰がこの国を壊すのか」など多数。