北朝鮮国営の朝鮮中央通信は9日、同国の戦略軍が中距離ミサイルで米領グアム周辺を攻撃する作戦を検討していると伝えた。国連の北朝鮮への追加制裁採択やトランプ米大統領(71)の威嚇発言への反発による挑発表明だが、日本に対しても「核兵器による無慈悲な一撃で日本列島は一瞬で焦土化できる」と“警告”。万が一、言葉通りグアム攻撃に踏み切るとなれば、どんな事態が想定されるのか。専門家がシミュレーションした――。

 朝鮮中央通信は10日、詳しい情報を伝えた。それによると、戦略軍司令官は9日、グアム周辺へのミサイル発射計画について、新型中距離弾道ミサイル「火星12」4発を同時にグアム沖30~40キロの海上に撃ち込む案を検討していると表明した。実施されれば、火星12は島根、広島、高知の3県上空を通過することになるという。

 火星12は今年5月に発射実験し、高度2000キロ超に達した新型ミサイル。韓国国防省は射程4500~5000キロとみており、北朝鮮から約3500キロあるグアムまでは優に届く計算となる。さらに、日本に対しても「核兵器による無慈悲な一撃で日本列島は一瞬で焦土化できる」「核の強い強打で日本列島丸ごと太平洋に沈められる」と威嚇した。

 北朝鮮は昨年も「グアムを地上から消す」と警告したが、金正恩朝鮮労働党委員長がグアムを敵視するのは、米軍が誇る戦略爆撃機の存在があるからだ。

 グアムにはアンダーセン空軍基地と原子力潜水艦基地のアプラ港がある。中でも空軍基地には昨年、B―1B、B―2、B―52の3大爆撃機全機種が配備された。

 拓殖大学客員研究員で元韓国国防省北朝鮮分析官の高永チョル氏はその能力を「B―1Bは多彩な爆弾を搭載でき、グアムから北朝鮮まで2時間で爆撃できる。B―2はステルス性能が高く、核爆弾も搭載できる。B―52はじゅうたん爆撃が特徴。北朝鮮が最も恐れているのはB―2に搭載されるバンカーバスターで、地上に着弾後、地下20~40メートルまでコンクリートでも掘って、大爆発する。金正恩は地中に潜んでいるといわれるが、複数箇所に投下されれば逃げられない」と指摘する。

 北朝鮮は自国に脅威となる爆撃機が配備されるグアムの空軍基地をミサイルで叩いてしまおうという算段だが、実際にやってしまえば、反撃されるのは必至。

「もし、グアムを攻撃するならば、日本や韓国の米軍基地もノドンやスカッドミサイルで同時攻撃するでしょう」(高氏)

 その際、日本ではイージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)と地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)で対応。米軍は韓国で、高高度迎撃ミサイルシステムのサード(THAAD=配備予定)で迎撃するが「同時多発に発射された場合はすべて撃ち落とすのは限界があり、1~2発の被害があるかもしれない」(高氏)というから気が気ではない。ただ、すべては金正恩氏の青写真でしかないとも。

「米は北朝鮮を偵察衛星やグローバルホーク無人偵察機、U―2(諜報偵察機)等で24時間監視し、加えて、北朝鮮国内にいる協力者、いわばスパイの情報で北朝鮮軍の動き、ミサイル発射の兆候をすべて事前に察知できる。奇襲的だったとしても数時間前には分かるもので、北朝鮮が本気でミサイル攻撃に踏み切るとなれば、米軍は迷わず先制攻撃に踏み切るでしょう」(高氏)

 グアムだけでなく、日本や韓国も狙う大掛かりな攻撃になればなるほど、北朝鮮の動きはすべて筒抜けとなる。先制ミサイル攻撃ができなければ米軍と北朝鮮の軍事力の差は歴然。専門家の間では、米軍の原子力潜水艦や空母からの大掛かりな空爆で、北朝鮮は数時間で制圧されるとの見方がもっぱらだ。

 トランプ大統領は8日「北朝鮮はこれ以上、米国を脅さない方がいい。世界が見たこともない炎と激怒で対抗する」と異例の威嚇発言で対抗したが、金正恩氏とは違い、決して“フェイク”ではないということか。

※チョルは「吉吉」