河野太郎外相(54)がフィリピンで外交デビューし、中国・王毅外相(63)らと会談したが、中国共産党の機関紙は8日、両外相が会談した際、河野氏が頭を下げて握手する写真を意図的に報じるなど、新外相を通じた“反日路線”が展開され始めた。一方、その中国では、過去の一人っ子政策の陰で誕生した第2子以降の無戸籍者「黒孩子(ヘイハイズ)問題」への対策をめぐり、足元がぐらつきかねないといわれている。

 河野外相は訪問先のフィリピンで7日、各国外相と会談し、日本の立場を伝えた。中国・王外相とは、中国が南シナ海の軍事拠点化を進めている問題で応酬。

 王氏が、同日開かれた東アジアサミット外相会議での河野氏の姿勢に「(南シナ海に関する)あなたの発言を聞いて率直に言って失望した」と語ると、河野氏は「中国に大国としての振る舞い方を身につけてもらう必要がある」と反論した。

 本紙既報通り、1993年に官房長官として、慰安婦問題で旧日本軍による関与と強制性を認めた「河野談話」を発表した河野氏の父・洋平元外相(80)は中国と韓国では「英雄」。

 王氏は洋平氏を「正直な政治家」とした上で「彼の経験した歴史の教訓と正確な意見を大切にするよう望む」と、河野氏をけん制した。

 その中国では8日付の中国共産党の機関紙、人民日報系の環球時報が1面で、7日の日中外相会談の際、河野氏が頭を下げて握手した瞬間の写真を掲載。日本の新外相が謝罪しているかのような印象を受けるが、これも“反日”をあおる中国のヤリ口とみられる。

 一方、今月、中国の公安部公式サイトに「黄明中国公安部党委副書記 戸籍制度の5つの重点課題への取り組みを実施せよ」との記事が掲載された。重点課題の一つが「無戸籍者問題の包括的解決」。79年に導入された一人っ子政策は2015年に廃止されたが、これに伴い、長年放置されてきた第2子以降の無戸籍者問題が急浮上している。

 中国人ジャーナリストは「一人っ子政策の下、2人目以降が生まれても出生届を出さない子・黒孩子がたくさんいます。農村部では働き手が欲しいため、子供をつくり続けたからです。実数は分からず、2億人ともいわれています」と語る。

 だが、その黒孩子の存在こそが、中国が“世界の工場”たり得る理由でもある。

 衣食住さえ与えられれば、無給でも働く黒孩子は安い人件費で知られ、中国は10年以降、GDPで世界第2位の経済大国の座をキープしている。

 一方で「黒孩子は戸籍を持たないため、教育や医療などのサービスを、受けられずに育つ。子供のうちは親の言いなりで、家業を手伝いますが、大人になるとホームレス、マフィアになる者も多く治安悪化の大きな原因です。戸籍がないので税金を払うわけでもない」(同)。中国政府は治安向上のためにも、黒孩子に戸籍を与えようというわけだ。これが実現すれば、中国はどうなるのか。

 中国事情に詳しいルポライターの奥窪優木氏は「失業率が上がるでしょう。政府発表の中国の失業率は4%前後。しかし、これには黒孩子はカウントされていません。仮に戸籍を与えても黒孩子は教育を受けていないため、まともな職に就くことは難しい。数字上の失業率が高まることになり、政府への不満が高まる可能性もあります」と指摘してこう続ける。

「これまで公共サービスを受けられなかった黒孩子に戸籍を与えることで、社会福祉や学校教育などへの費用増が見込まれます。一方で、満足な教育を受けていない黒孩子の多くは、戸籍を与えてもしばらくは低収入であることが予想されるので、税収の増加は期待できないでしょう」(同)

 さらには国民の間で不平等感が高まるとも。

 奥窪氏は「一人っ子政策を順守した人、違反して罰金を支払ってきた人の中には、黒孩子に戸籍を与えることに不平等感を感じている人もいます。国民の順法意識にマイナスの影響が出る可能性もあります」とみている。