安倍晋三首相(62)は7日にも韓国の文在寅大統領(64)との初会談を訪問先のドイツで行う。2015年12月の慰安婦問題を巡る「日韓合意の履行は重要」との従来の考えを伝える方針だが、文氏は「国民と元慰安婦は合意を受け入れられない」と見直しを主張してくる可能性が高い。日本政府はこれを拒否する構えだが、先月、韓国内でやっかいな謝罪碑書き換え問題が波紋を呼んで大きく報じられ、またも両国間の溝が浮き彫りになっている。

 慰安婦問題で回復できない日韓対立を生んだ原点となったのは、故吉田清治氏による「従軍慰安婦の強制連行」という偽証と、その偽証を大々的に取り上げた朝日新聞の報道だった。

 その吉田氏が韓国の国立墓地に建立した謝罪碑を管理事務所に無届けで書き換えたとして、韓国警察が先月、元自衛官の奥茂治氏(69)を一時拘束し、拘束を解いた後も出国禁止措置となっている。一部報道によると、奥氏は吉田氏の長男と「謝罪碑の封印が必要だ」と意見が一致して、行動したという。韓国では大きく報じられている。

 韓国事情に詳しい文筆人の但馬オサム氏は「奥氏の今回の行動に対しては、日本の識者からもいろいろな意見があるかと思います。しかし、奥氏自身は決して思い付きからの行動ではなく、こうなることを覚悟していた。おそらくこれから韓国と全面的に司法対決して、さらに吉田清治氏の嘘を韓国で報道させる作戦でしょう」と指摘する。

 そもそも、慰安婦像と違い、謝罪碑は吉田氏が“自費”で、つまり私的に建立したものだ。

「吉田氏の一連の証言が虚偽であることがわかった以上、吉田氏の長男の一存でこれを撤去させることは一応の理屈は通ります。むしろ、吉田証言を持ち上げ、慰安婦問題をここまでこじらせた張本人である朝日新聞が率先して謝罪碑撤去の論陣を張るべきだった。むろん、韓国側がそれをのむものとは思いません。事実、奥氏が謝罪碑の上から貼った慰霊碑の3枚のプレートはさっそく剥がされました」と但馬氏。

 奥氏が謝罪碑の書き換えという手段に出たのは、韓国にとって碑は特別な意味を持つという国民性を考えたものだった。

 但馬氏は「韓国では碑を建てて、そこに民族の屈辱や恨みを込めるのです。たとえば、追悼碑では、日本人は『安らかにお眠りください』と祈るものですが『あなたの恨みは忘れません』と祈るのが韓国人。そして、それを石碑に刻み、千年万年の恨みを誓う。つまり、吉田氏の建てた謝罪碑は、日本人が『慰安婦強制連行』という悪行を認め、謝罪し、恨みを慰撫するという意味で韓国ではとらえられています」と説明する。

 道徳にこだわる韓国人が謝罪碑を放棄するわけがないのだ。だが、ここでいう道徳とは、日本語のそれとは大きく意味が異なる。

「韓国人の使う『道徳』は相対的な言葉で必ず上下の関係を伴うのです」と但馬氏。

 たとえば「日本軍が朝鮮の少女をさらって慰安婦にした」という前提の場合、当然、少女をさらった日本軍は、少女をさらわれた朝鮮民族よりも道徳的に下位になるということだ。

 但馬氏は「このため謝罪碑は、さらった張本人の日本人が、道徳的下位であることを求め、それを石碑という形で永久にその罪状を刻んだことになります。韓国からすれば、千年万年、日本民族に道徳的優位を主張し、永遠に謝罪を要求できる。その証しがあの碑なのです。それほどまでに、韓国では碑を建てるということは重い意味を持ちます。慰安婦像も同様です。したがって、彼らは一度建てた碑や像はどんなことがあっても撤去には応じないでしょう」とみている。