痴漢冤罪騒動が、満員電車を利用するサラリーマンなど一般男性を恐怖に陥れている。痴漢冤罪におびえて電車に乗ることすらちゅうちょする男性も出ている中、都心をぐるりと1周するJR山手線の車内に防犯カメラが設置されることになった。冤罪を未然に防ぎ、抑止力につながる効果も期待されるが、そもそも痴漢犯罪をなくすことはできないのか。専門医に聞くと、痴漢常習者の驚くべき“ギャンブル性思考”が浮かび上がった。

 2020年東京五輪・パラリンピックを控え、セキュリティーを向上させたい鉄道各社が防犯カメラ導入を進めている。

 利用客からは「プライバシーの問題もあり、抵抗はあるが、仕方ない」との声が上がっている。電車に乗る際に、痴漢冤罪と防犯カメラで、窮屈な思いをしなければいけない時代になったといえる。

 そもそも憎むべきは痴漢犯罪だ。東京・豊島区にある「榎本クリニック」の山下悠毅院長(専門・ギャンブル依存症、薬物依存症、痴漢などの性依存症)は痴漢についてこう語る。

「『痴漢をする人は性欲が強い』と考えている人は多いのですが、それは違います。なぜなら、もし性欲の強い人が女性のお尻を触ろうものなら、そこで止めるなんてことはできないわけですから。つまり、痴漢とは性欲を満たすための行為ではなく、スリルを満たすための行為なのです」

 痴漢の常習犯になる人物像は、どんなものか。

「世の中の全女性を敵に回すかもしれない発言ですが、これはかなり運が関係しています。男は誰でも『満員電車で女性のお尻に手が触れていた』場面で、それが問題にならなければ『痴漢って楽しい』という記憶の回路が脳内に形成されるのです。これはギャンブルなどのビギナーズラックと全く同じ原理です。つまり、人は突然、期待値を大きく上回る体験(突然の大金、突然の性的な接触など)をすると、その人の知性や性格に関係なくハマってしまうのです」

 実際、山下院長が診ている患者の中にもいる。

「偶然、電車内で女性のお尻に手が触れていたことがきっかけでした」と、それまでは堅実な人生を送ってきた人が痴漢常習者になるケースがたくさんあるという。

「彼らは原則として痴漢中に射精を伴わないわけですから、根本にある感情は性欲ではなくスリルです。そもそも本当に悪い男は痴漢ではなく、もっと悪質なことをするわけですからね。つまり、痴漢とはギャンブルなのです。絶対成功する風俗店、絶対失敗する昼間の大通り、こうした場所では彼らは痴漢行為をやりたいとも思わないのです。彼らはあくまでも“のるか・そるか”という場所でのみ行うわけです。そして徐々に、より強いスリルを求めるようになり、より過激な場所を触る、より長時間触るといった行為を繰り返し、逮捕されるまで続けてしまうのです」(同)

 山下院長は、山手線の防犯カメラの設置について心配があるという。2009年に埼京線に防犯カメラが設置され、痴漢が半減したように、抑止効果はあるはずだが…。

「埼京線に防犯カメラが設置されたとき『過去に痴漢をしていた患者さんの抑止力になる』と思って安心したのですが、これまでは痴漢が止まっていた患者さんが再犯してしまいました。私は驚いて『埼京線にカメラがついたニュースを知らなかったの?』と聞くと、なんと『知っていました。ニュースを見て、自分への挑戦だと思って…』なんて話す人がいて、改めて痴漢はギャンブルなのだなと感じました」

 偶然の接触から常習犯へ。一般男性にとっては人ごとではない。確かに、痴漢をしない人にとっては「触るだけの痴漢の何が楽しいのか」と理解に苦しむ。

 山下院長は「初めてやった痴漢で捕まった人は、脳内に負の記憶の回路が形成され、痴漢を繰り返す確率は極めて低い。しかし、もしそれが偶然であったとしても、とがめられることもなく『楽しい』と感じてしまった人は必ず受診をしてください。痴漢の自然治癒率は極めて低い一方で、当院では私がカウンセリングを行うことで約9割の患者さんが回復をしています」と受診を勧める。