北朝鮮が29日午前5時半ごろ、平安南道北倉付近から弾道ミサイル1発を発射した。失敗したとみられる。東京都内では地下鉄などが運転を見合わせるなど一時、混乱状態に。世界最強の米原子力空母「カール・ビンソン」が朝鮮半島近海に向かう中での発射強行で、北朝鮮が対決姿勢を改めて示した形となった。果たして戦争突入の“Xデー”は訪れてしまうのか。

 北朝鮮が弾道ミサイル発射を敢行したのは、今月16日以来13日ぶり。韓国軍合同参謀本部によると、発射から数秒後に空中爆発し、北朝鮮内陸部に落下したとみられる。日米韓はミサイルの種類などの分析を急ぐとともに、追加発射を警戒している。

 菅義偉官房長官(68)は発射を受けた緊急の記者会見で、「国連安全保障理事会決議への明確な違反であり、度重なる挑発行為を断じて容認できない」と批判した。

 政府は北京の大使館ルートを通じ、北朝鮮に厳重に抗議。防衛省幹部は「失敗」との見方を示し、日本への直接的な被害はないと説明。政府は首相官邸の危機管理センターで情報収集・分析を進め、関係省庁幹部らによる緊急会議も開いて対応を協議している。

 英国訪問中の安倍晋三首相(62)は情報収集や国民への迅速・的確な情報提供、不測の事態に備えて万全の態勢を取ることなどを指示した。

 都内の地下鉄・東京メトロでは午前6時7分から約10分間、電車の運行を止めた。「北朝鮮が弾道ミサイルを発射したため全線運転を見合わせております」とアナウンスが流れ、車内は騒然に。ミサイル発射に伴う運転見合わせは初めて。北陸新幹線の一部区間、私鉄などでも運転を見合わせる事態が起きた。

 国連安保理が28日、ニューヨークで北朝鮮問題を巡り閣僚級会合を開催したタイミングでの北朝鮮の“強行”だけに、その意味は重い。

 議長を務めたティラーソン米国務長官は「北朝鮮によるソウルと東京への核攻撃は今や現実の脅威」と指摘し、北朝鮮のミサイル・核開発を抑制しなければ「破滅的な結果」を招くと主張。軍事的な行動も辞さない姿勢を示し、北朝鮮の外貨獲得である外国への労働者派遣を受け入れないことや、石炭などの輸入停止など具体的な制裁も新たに提案していた。

 北朝鮮事情に詳しい軍事ジャーナリストは「北朝鮮のミサイル発射強行は、国連安保理で外交、経済両面で新たな制裁の可能性が高まったことに加え、現在、行われている米韓共同軍事演習への反発からでしょう。ただ、核実験を強行すれば、戦争突入の危険性はより高まる。北朝鮮の海軍力では、米原子力空母『カール・ビンソン』に触れることもできない。“ミサイル発射なら”と考えた可能性もある」と指摘した。

 しかし、「カール・ビンソン」を中心とする第1空母打撃群が、北朝鮮を攻撃できる海域に入っており、朝鮮半島は緊迫度を増すばかりだ。

 ドナルド・トランプ米大統領(70)は今回のミサイル発射を受け、28日夜、ツイッターで「北朝鮮は中国と(習近平)国家主席の望みを軽視した」と批判した。26日にはホワイトハウスに上下両院議員全員を集め、北朝鮮政策を説明。北朝鮮への軍事介入を見据えて、議会の承認を得る準備を進めていた。

「米国には戦争権限法があり、大統領が外国に派兵する場合は事前の議会への説明の努力と48時間以内に議会に報告、議会の承認が得られなかった場合は60日以内に軍事行動を停止しなければならないという制約がある。北朝鮮への軍事介入がより現実的な段階に入っていることだけは間違いない」(前同)

 トランプ大統領は先日、北朝鮮との間で「非常に大きな衝突」もあり得ると発言したばかり。今回の北朝鮮の挑発行為が、“Xデー”へのさらなる緊張を高めたことだけは確かだ。