2006年12月1日に廃線となり、旧神岡鉄道に長年保存されていた「おくひだ1号」が8日、1日限定でその雄姿を見せた。約10年ぶりにこのディーゼル気動車が走ったのは、岐阜、富山県境の山間部を走る旧神岡鉄道の旧神岡鉱山前駅~旧奥飛騨温泉口駅(以下「旧」を略)間の約3キロと、その折り返し区間となる奥飛騨温泉口駅~神岡大橋駅間の800メートルあまりだ。

 午前10時ごろ、岐阜県飛騨市の都竹淳也市長や関係者を乗せた車両(1両、定員110人)が神岡鉱山前駅を出発すると歓声が巻き起こった。おくひだ1号は、同駅を出ると時速5~10キロほどで奥飛騨温泉口駅を目指した。徒歩や自転車でも追い越せるほどの速度だ。各駅に10分ほど停車した。

 同車両が奥飛騨温泉口駅に着いたのは、午前11時過ぎ。そこには、大勢の鉄道ファンや地元の人たち5000人以上が待ち構えていた。

 神岡鉄道は、第3セクター方式で設立された鉄道で、猪谷駅(富山市)から奥飛騨温泉口駅(飛騨市)間の19・9キロを結んでいたが、06年に廃線となった。同線は60%あまりがトンネルながら、風光明媚でもあることから、鉄道路線に乗ることだけを目的とした「乗りつぶしマニア」にも人気があった。

 この企画に尽力したのは、NPO法人神岡・町づくりネットワーク(事務局・田口由加子さん)だ。同法人と飛騨市の共同企画によって実現した。同ネットワークは、神岡線の廃線路を活用した軌道自転車(レールマウンテンバイク)「Gattan Go!(ガッタンゴー)」を運営する法人で、実際の廃線路を有効活用して運営を行っている。今回の企画は、営業開始10年を記念して行われた。

 田口さんは「おくひだ1号は、10年ちょっと動いていませんでした。ずっと静態保存されていたものです。今回は、試運転もやって、ちゃんと動くことを確認して運行させました。北陸ロジスティクスさんに整備・運転を委託しています。また、神岡鉄道のOBの方にもお力添えをいただきました」と話した。

 現在、おくひだ1号は、奥飛騨温泉口駅に展示されている。冬に入るころには、再び“自走”して神岡鉱山前駅にある車庫に戻ることになっている。