和歌山県白浜町のレジャー施設「アドベンチャーワールド」で12日、タイ国籍の飼育員ウィチャイ・マディさん(37)が、雌のアジアゾウ・ラリー(40歳、体重約3・5トン)の体を洗っていたところ、嫌がったラリーが振り回した鼻で鉄柵に打ちつけられ、死亡した。人を襲うことはめったにないといわれるゾウだが、実は危険な動物だった――。

 同園や県警白浜署などによると、マディさんは開園前の午前9時15分ごろ、同じくタイ国籍の男性飼育員と、ブラシなどを使ってラリーの体を洗っていた。その際、ラリーの鼻で押され、後方の鉄柵に打ちつけられたという。病院に運ばれたが、頭を強くぶつけたとみられ、死亡が確認された。

 インドでは、野生のゾウが集団で村を襲い、住民や建物に大きな被害が出ることもある。国内では2012年に富士サファリパークで飼育係の男性がアジアゾウに襲われ、死亡する事故が起きている。アジアゾウは気性が荒いのか?

 アジアゾウを飼育する動物園関係者は「人間と一緒でおとなしい子から荒っぽい子まで個体差はありますが、非常に頭も良いですし喜怒哀楽もある。人をすごく見て、お気に入りの飼育員がいたりします」と説明する。

 飼育方法については、「雄の場合は、ムストといわれる発情期は危険といわれている」(同)。同じ獣舎に入らず、体にも触らない間接飼育を行う。

 一方、やや小さな雌に対しては、直接触ったり採血を行ったりもするが「雄より小さいといっても体は大きいですし、鼻で叩かれれば、男性でも2~3メートルは吹き飛ばされる」ため、必ず2~3人で作業に当たるという。

 雌のアジアゾウ「ラニー博子(ひろこ)」を飼育する大阪市天王寺動物園も同様で「必ず2人以上で作業をすること」「動きが読めないので背中を向けないこと」を徹底している。

「ラニーも、『何で?』っていう時に機嫌を損なうことがある。直接飼育だから、柵を隔てて間接飼育する虎やライオンよりも危険。動物園で飼っている動物の中で一番、事故が多いのではないか」(同園関係者)

 そんな、プロも扱いに注意を払うアジアゾウの飼育。今回の事故についてまだ詳しい状況が分からないながらも、事故時に柵内にいた2人がタイ人であるところも注目されている。タイといえばゾウの本場で知られ、ゾウ使いの職業もあるほどだ。

 天王寺動物園関係者は「日本とタイでは飼い方が違うんですよね。ウチのように普通に飼うのだと『ゾウが嫌なら嫌でいいやん』て感じですけど、ゾウ使いのように使役的に飼うのであれば、人の言うことを聞かせるために厳しく訓練もする」と話す。

 体の洗浄方法も異なる。「(直接洗浄は)タイ式の飼育の仕方なのかも? 現地の人は体も洗ったりするんですよ。ウチでは柵の外から水をかけたりはしますが、ブラシで体を洗ったりはしないんです」(同)

 アドベンチャーワールドによると、ゾウの体の洗浄は毎日行っている。マディさんはタイでゾウを扱っていた経験があるといい、15年6月に来日し、同園で働いていた。同園の今津孝二園長は「安全管理に問題があった可能性もあり、原因究明を徹底したい」と話している。