外国人観光客の急増でホテル不足が慢性化し、一般住宅を宿泊施設として活用する「民泊」が許可制や国家戦略特区の活用で導入されているが、厳格な規制が課されることになりそうだ。自分が住まない部屋を提供する民泊。そこで旅行者が大騒ぎして近所迷惑になることもある。また、ホテルや旅館などの業界関係者は民泊の「提供日数制限」を求めており、20日からの通常国会で「民泊新法」が提出される予定だ。新法で既存の民泊経営者が圧迫される半面、ここぞとばかり中国人が参入してくることが危惧されている。

 民泊をめぐっては最近もこんな事例があった。

 大阪市のマンション一室で民泊を無断営業したとして、管理組合の理事長が部屋の元所有者の男性に50万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は16日までに請求通りの支払いを命じた。男性は2014年11月~16年8月上旬ごろ、所有していたマンションの一室に旅行者らを有料で宿泊させた。旅行者らが共用玄関などで騒いだり寝転んだりして、警察も出動していた。

 こうしたトラブルが起こることもあり、民泊に関して、政府が20日召集の通常国会に新法案の提出を予定している。同法案では、民泊サービスを行う家主を都道府県への届け出制とし、近隣とのトラブルを防止するため、苦情への対応を義務付けるなど、宿泊事業者としての責任を明確化するが、実効性が課題となりそうだ。

 年間営業日数は180日以内とし、自治体の条例で制限できる仕組みを検討する。また、インターネットなどの仲介業者も登録制とし、利用者への契約内容の説明などを義務付ける。

「年間半分しか稼働できないのであれば、儲かるはずがない。民泊ビジネスは一気にブームが去るでしょう」と話すのは、都内で民泊施設を経営する女性だ。

「うちはいわゆる一部屋まるごと家主不在型民泊なのですが、稼働率6割強が損益分岐点。180日規定が厳格に運用されるなら、もはや廃業するしかない。民泊の情報を掲載する米国の『エアビーアンドビー』などの仲介サイトにも、年間180日以上の予約ができないようなシステムづくりを求めるつもりでしょう。民泊破産が続出するのでは?」(民泊経営の女性)

 これまで民泊はホテル不足の救世主などと言われながらも、法整備が追いついていなかった。国は昨年から旅館業法に基づく「簡易宿所」と位置付け、許可制で認めている。ほかに東京都大田区や大阪市のいわゆる“民泊特区”で認定を受けた民泊施設以外は違法営業と言っていい。

 180日規定は、そんな無法状態を打破するべく、昨年6月の政府の規制改革会議で閣議決定されていた。

 180日規定が盛り込まれる民泊新法は、施行を前に、すでに市場を萎縮させているようだ。民泊仲介サイト最大手のエアビーアンドビーに登録されている日本の民泊施設の数は、2015年当初には7000件程度だったもの、同年末には3倍以上の2万2000件にまで増加した。ところが2016年の伸びは2倍程度にとどまり、現在の物件数は約4万6000件とされている。

 しかし、こうした状況を好機とばかりに“逆張り”を仕掛けるのが 中国人投資家たち。

 例えば、中国系の民泊仲介サイトの代表格「自在客」に登録されている日本の民泊施設数は、昨年1月には1500件程度だった。それが1年を経た今、10倍以上となる約1万8000件にまで急増している。

 その要因について、都内で民泊用物件の仲介と管理を行う中国系不動産会社代表の男性はこう話す。

「中国の富裕層は、資産の海外移転に余念がありませんが、そのひとつとして注目されているのが日本での民泊投資なんです。山手線の駅チカに5部屋ほどの中古アパートを一棟建てれば平均利回り15%以上も可能。マンション一軒を賃貸経営するのと違い、空室でインカムゲインがゼロになってしまうリスクも低いですし。投資額としては2億円前後が一般的」

 ちなみに、日本人の民泊オーナーたちの間で不安が広がる180日ルールについては「中国に数ある民泊仲介サイトを使えば、何日営業しようがバレませんから」(不動産会社代表の男性)と事もなげ。「むしろ民泊営業をどんどん厳格化してもらったほうが、ライバルが減ってチャンスが増える」(同)と言ってのける。

 禁酒法のように、法の締め付けによって逆に闇が栄えるような事態にならなければよいが…。