【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】タイの人気リゾート・パンガン島で7日、海水浴中に行方不明になった日本人男性が遺体で発見された。「実はタイは水難事故が多い。ボートやフェリーの沈没などで毎年たくさんの旅行者が死んでいる」と指摘するのは首都バンコクの旅行会社オーナー。

 昨年5月にもパンガン島の南にあるサムイ島沖でボートが転覆し、英国人とドイツ人が死亡、さらに2人が行方不明となった。春に比べると1月は気候も安定し、ベストシーズンだが、今年は強烈な低気圧が発生。パンガン島が浮かぶタイ湾からタイ南部一帯では、大嵐と洪水により、これまで110万人余りが被災し、25人が死亡した。

 海は荒れ、波は高くなり、運航には危険な状態だが、客が多い稼ぎ時のため、各島へ向かう船は半ば無理やり出航していく。定員オーバーも珍しくない。死亡事故が起きた同時期、パンガン島のすぐ北にあるタオ島を訪れていた男性が振り返る。

「海面も見えないほどの大雨と強風、水しぶきのなか、乗った船は本土を出航。まるでジェットコースターのように激しく揺れ、猛烈な船酔いに見舞われ、死も覚悟した。船内は阿鼻叫喚の地獄絵図だった」

 もちろんどの船にも救命胴衣は積まれているが、使われていないのが実態だ。本来なら乗船時に着用が義務付けられるが、船員が面倒くさがっておざなりになっているケースが多い。乗客もリゾート気分で浮かれ、気が回らない。破れたり、留め具が壊れたりして使い物にならない救命胴衣が散乱している船もある。

 タイ湾だけでなく、マレー半島を挟み、西側のアンダマン海でも事故が多発し、昨年11月にはホン島沖でロシア人観光客らが乗ったボートが沈没。タイ国内を流れる大河・チャオプラヤー川を下るボートも昨年9月に中部アユタヤで岸壁に衝突し沈没、28人が死亡した。多くの場合、整備不良が原因とみられている。

「万が一のとき、責任を取ることになる船長は大概の場合は泳いで逃げる。後に警察に捕まるオチだが、まずは逃亡。これは船に限らず、バスや列車の事故でも同様」と冒頭の旅行会社オーナー。

 リゾート島には危険な誘惑もある。パンガン島でも取り締まりは厳しくなっているが、大麻やマジックマッシュルームなどが出回っている。特に満月の夜に開かれる“フルムーンパーティー”は観光客に人気で、ドラッグをキメる参加者が続出する。

「現場では通称『バケツ』と呼ばれる酒が売られている。プラスチック製バケツにウイスキーやジン、レッドブルなどを混ぜストローで飲む。そんな酒や麻薬で酩酊した欧米人が海で溺死する事故も起きている」(前同)

 タイを象徴する言葉「マイペンライ」(気にしない、気楽にいこうの意)では済まない。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。3年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。