2020年東京五輪・パラリンピックの会場見直し問題の行方を左右するトップ級会合「4者協議」が29日に都内で開かれ、見直しを主導してきた東京都の小池百合子知事(64)は存在感を示すことができなかった。犬猿の仲である森喜朗・大会組織委会長(79)が独自のコネクションを使って“小池包囲網”を構築することに成功。小池氏はまんまと網に引っかかってしまったのだ。このままではコスト削減の手柄まで小池氏の手から離れてしまいかねない。

 IOC、組織委員会、東京都、政府による4者トップ級会合は当初、3部制の予定で、一部分がマスコミ非公開の予定だった。しかし、情報公開が信条の小池氏がフルオープンにこだわり、公開の場で小池氏が結論を話すことでトップレベルが一致。それだけ小池氏は気合が入っていたわけだ。

 見直しの対象は3会場。水泳競技を行う「アクアティクスセンター」(江東区)については、「観客席2万席を1万5000席にする。170億円の削減ができる」(小池氏)と会場変更はなしとした。ボートとカヌーを行う「海の森水上競技場」(東京湾)についても現行のまま。小池氏が提案していた宮城県長沼は「事前キャンプの場所に活用してもらうと(IOCに)言ってもらった」(同)とし、メンツをかろうじて保った。

 バレーボール会場には「有明アリーナ」が予定されていたが、「有明アリーナか(代替候補の)横浜アリーナか、しばらく考える時間を頂戴したい。クリスマスには最終の結論を出したい」と小池氏は猶予を求めた。

 これに森氏が「小池さんねえ」と詰め寄った。「クリスマスまでと言うけど、それまでに何をやるの? 僕の知りうる情報だと横浜市は迷惑だって。なぜなら野球の会場が内定していて、横浜市はそれで手いっぱいなんだと。急にバレーで林文子横浜市長が『えっ』と思っている。横浜市との合意が必要ですよ」

 小池氏は「横浜市からは『決めたらやる』と返事をもらっている」と言い返したが、森氏は「くどいようだが、横浜市がOKしてくれると判断しているんですね」と含みのある言い方。小池氏は「期待している」とトーンダウンした。

 実はすでに小池包囲網が張られていた。永田町関係者は「菅義偉官房長官は神奈川選出ということもあり、横浜市に影響力を持っている。菅氏から林市長に対して、『バレーを引き受けたら野球はなくなる』と“助言”があったといいます。森氏はそれを知っているから自信満々なのでしょう」と明かした。横浜市としては盛り上がる野球の方が欲しいはずだ。

 森氏はIOCとも包囲網を築いた。都の調査チームはこれまで大会総経費が3兆円になる可能性を喧伝して、コストカットの必要性を訴えていた。この日、武藤敏郎組織委事務総長(73)は「2兆円は切る」と明言。ジョン・コーツIOC副会長は「2兆円が上限というのは高い。節約の余地はある。それには早く決定することが必要だ」とさらなるコストカットを要請した。

 都政関係者は「組織委とIOCがそろって小池氏以上の経費削減に言及したことで、小池氏の出る幕がなくなってしまった」と振り返った。コスト削減は小池氏が会場見直しを提案したからこそ実現できたのだが、今やIOCの方が積極的になっている。

 小池氏は墓穴も掘っていた。アリーナ問題の期限をクリスマスにしてしまったことだ。IOCのクリストファー・デュビ五輪統括部長は「今やり直すとなると大変な作業だ。クリスマスがデッドラインなら一生懸命やるとしかいえない」と否定的意見を述べた。

 組織委関係者は「実は今日で有明に決まるはずだった。これまでの会合で横浜を主張しているのは(都特別顧問の)上山信一氏だけ。議論の余地はもうないのだけど、小池氏が粘った。もっともIOCは怒っているでしょう。欧米人にとってクリスマス休暇は大切なのに仕事になっちゃったんだから」と指摘した。

 小池氏は森氏との政治的な力比べには完敗。しかし、コスト削減がかなったことで踏みとどまったと言えるかもしれない。