タイ政府は13日、プミポン国王(ラマ9世)の死去を発表した。88歳だった。同国王は国民から「ポー(お父さん)」と呼ばれ、敬われてきた。在位期間は70年に及び、現役君主としては世界最長。タイは14日、1年間の服喪期間に入った。

 午後7時のニュースで崩御が一斉に報じられると、その場に泣き伏す人、ぼうぜんとする人もいたが、特に目立った混乱はなく、屋台街なども通常通り営業した。高齢でかねて闘病生活が続いていたこともあり、タイ国民にはある種の“覚悟”が決まっていたようだ。

 1946年6月、兄のラマ8世が宮殿内の寝室で、拳銃で頭を撃ち抜かれた変死体で見つかった(未解決)。プミポン国王はその半日後、18歳でタイ国王に即位。それまでの王室はスキャンダルや財政問題などもあり、国民の評判は良くなかったが、プミポン国王は一代でひっくり返した。

 自ら先頭に立ち国土開発に着手。その気さくな人柄と、2000以上にも及ぶ王室プロジェクトの実績から、次第に国民の支持を集めた。政治的言動は基本的に控える立場ながら、度重なるクーデターや騒乱のたび、衝突している派閥のリーダーたちを呼び出し、調停役としての役目を数十年にわたって務めた。

 多彩な趣味人としても知られ、特にジャズ奏者としての腕前は超一流。サクソフォンを吹き、自作曲は50以上ある。地方視察の際はカメラを首にぶら下げ、愛機はキヤノンの一眼レフ。東南アジア競技大会で優勝したヨット、絵画やアマチュア無線も。また晩年かわいがった雑種犬「トーンデーン(赤銅色の意)」についての著書は65万部のベストセラーとなり、実写化や漫画化もされた。

 新国王にはワチラロンコン皇太子(64)が即位する見通し。国王の次女シリントン王女(61)も王位継承権を持つ。何度も女性スキャンダルが伝えられた皇太子ではなく、黙々と公務をこなしてきたシリントン王女を後継にとの声はくすぶる。

 タクシン元首相派と反タクシン派の対立が長らく続き、混乱が続くタイにあってプミポン国王の死は国民和解の後ろ盾を失うことも意味する。皇太子への不安もあるだけに、政治的対立が深刻化した場合に調停役不在にもなりかねない。