「東京大停電」の危険度 専門家はテロ対策の必要性を指摘

2016年10月14日 06時45分

 都心がパニックに陥った12日の広域停電は、首都の危機管理に警告を発した。同日午後3時半ごろから、東京都港区や千代田区、練馬区など11区の約58万6000軒で生じた大停電。約200か所の交差点などで信号機が消灯し、警察官が交通整理する光景が各地で見られ、エレベーターに閉じ込められる人も相次いだ。停電直前に埼玉・新座市の東京電力の関連施設で送電用の地下ケーブルが発火する火災が起きており、停電の原因になったとみられる。政府や東電はテロの可能性を否定したが、専門家は火災を機にテロ対策を講じる必要性を指摘した。

 火災が発生したのは埼玉県新座市野火止の東電施設「新座洞道新洞26号」。洞道とは聞き慣れないが電力、通信会社がケーブルなどを埋設するために地下に持つ“地図上にない”トンネルだ。この送電施設から午後2時50分ごろ、黒煙が上がっているのを住民が通報し、消火活動が行われた。

 東京電力は「豊島変電所(東京都)と新座変電所の間を通っている地下の送電線から何らかのトラブルで出火した後、ほかのケーブルにも引火して火災が発生。新座変電所が停止したことが停電の原因。人為的なものではなく、自然発火」とみている。

 別の経路での送電に切り替え、停電は約1時間後に解消されたが、一時は西武鉄道や東京メトロの一部で運転を見合わせ、帰宅ラッシュの乗客の足に影響した。一部の銀行ではATMも使えなくなった。東池袋の都道交差点は午後6時を過ぎても信号が復旧せず、警察官が交通整理に追われた。

 火災が起きた送電施設は地上から見る限り、飲食店や自動車用品店と車道との間に立つ1本の電柱の周りをフェンスで囲んだだけのごく小さなスペース。とても首都への電力供給の重要施設の入り口があるようには見えない。地元の住民も、多くが「そんな施設だとは知らなかった」と目を丸くしていた。

 東電の広報室によると「フェンス内のマンホールから地下に入る構造になっており、基本的に無人の施設。火災発生前に作業員の立ち入りはなかった。マンホールには東電のマークが入っているが、特にこの場所に送電施設があるという目印はなく、場所も隠しているわけではないが、公表はしていない」という。

 問題は、今回の火災によって、首都への膨大な電力供給を担う送電施設の場所が公になってしまったことだ。東電は早々に「人為的なものではない」とテロの可能性を否定し、政府も「テロを類推させるものはない」との見方を示したが、裏を返せば、テロの標的となり得る施設が火災でわかってしまったといえる。

 青森中央学院大学の大泉光一教授(国際テロ研究)は「ペルーのゲリラ組織『センデロ・ルミノソ』や、スペインの分離独立派『バスク祖国と自由』など、歴史的にも海外では鉄塔が攻撃された例が数多くある。停電で市民をパニックに陥らせ、情報を遮断するためにも、送電施設はテロリストが最も掌握したい施設の一つ」と指摘する。

 テロリストが地下トンネルに立てこもり、送電線を故意に爆破すれば、停電被害は58万軒どころでは収まらず、さらに大規模で深刻になる。

 今回の停電では、エレベーターに閉じ込められる人も多数出た。都内200か所の信号機が消灯し、警察官は交通整理に当たらねばならなかった。中央官庁がひしめく東京・霞が関でも停電が発生し、公務に影響が出た。裁判所も一時裁判がストップし、再開した後もエアコンが効かなくなった。テロの標的となれば、首都機能がマヒしてしまう。そうならないためにも、さらなる危機管理対策が必要だ。

 大泉教授は「今回の火災現場は第三者が絶対に立ち入れない厳重なセキュリティーになっていたのか疑問。また、日本企業は“自分のところの社員はやるはずがない”という頭があるが、この先、内部犯行が絶対に起こらないとも限らない。2020年東京五輪に向けてテロの脅威が高まるなか、第三者はもちろん、身内の作業者一人ひとりの出入りを徹底管理するなど、態勢の見直しが急務でしょう」と警鐘を鳴らした。