【ノーベル賞】ヒゲの先生・大隅教授「オートファジー」解明が開く未来

2016年10月05日 07時00分

 酵母の液胞の研究から細胞が自分のたんぱく質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明し2016年のノーベル医学生理学賞の単独受賞が決まった大隅良典東京工業大学栄誉教授(71)が3日夜、東京・目黒区の東工大大岡山キャンパスで会見を開いた。「ヒゲの先生」は学内でも“最もノーベル賞に近い男”として有名だった。

「本日、ノーベル委員会から受賞のお知らせを頂いた。もちろん、研究者にとってこの上なく名誉なこと。数年前から思いがけずいろんな賞を頂いたが、ノーベル賞には格別な重みを感じている。少年時代には目指したが、実際に研究生活に入ってからは意識の外にあった。戦後の大変な時代から温かく見守ってくれた今は亡き両親にまずは今日のことを報告したい」

 大隅教授は1945年、福岡市生まれ。父親は工学教授で、兄弟もそれぞれ研究の道に進んだ。67年に東大教養学部を卒業。米国留学を経て、96年に基礎生物学研究所教授就任。09年に東工大特任教授、14年に同大栄誉教授。妻も元研究者という生粋の“研究者一族”だ。

「妻も研究仲間だったこともあり、いろんな面で甘えてきたなと思っている。(自分は)いい家庭人だったとは言えないが、それにもかかわらず支えてくれたことは本当にありがたい。(受賞を知った)妻は『えっ、本当?』という反応が本当のところ」とあまりのビッグニュースに妻も驚きを隠せなかったという。

 だが、学内では“ノーベル賞に最も近い男”として評判だった。「大隅先生は数年前に定年を迎えているが、大学に戻って研究を続けている。とにかく研究ひと筋。偉い先生なのに(横浜市内の郊外にある)すずかけ台キャンパスまで車通勤じゃなくて電車で通っているみたいで、よく電車内で目撃されていた」(東工大生)という。

 別の学生は「誇らしいし鼻が高い。東工大はマイナーなのが悩みの種。大学の知名度向上に大きく貢献されたのでは。大隅先生は陰で学生たちから『ヒゲの先生』と呼ばれている」と明かす。

 大隅教授は自身のヒゲについて「とても童顔だったので外国に留学する時にあまり若造に見られたくないと思って留学前にヒゲをはやしました。だんだん、真っ白になってきましたけど。留学中にちっとも面白いことがないので1回剃ってみたら、自分で“こんな顔してたんだ”とビックリしてまた伸ばしている。40年くらい、無精ひげを伸ばしているがとってもラク」と笑わせた。

 会見の途中で安倍晋三首相(62)から祝福の電話が入った際も「もしもし、大隅でございます。はいはい、はい。ちょっと電話の調子が悪いので…はい」とマイペースを崩さなかった。そんな性格は研究分野の選択にもよく表れていた。

 約9500万円の賞金の使い道については「この年になると豪邸に住みたいわけでもないので、できるだけ役に立つことができれば。若い人たちのサポートができるようなシステムができないか」と未来のノーベル賞候補者らにたすきをつなぎたい考えだ。

 オートファジーはギリシャ語で自分を表す「オート」と、食べるという意味の「ファジー」を組み合わせた言葉。人間の体をつくる細胞は、飢餓状態に陥ると、その状態を乗り切るために細胞の一部を分解し、それを栄養として再利用する。人間だけでなく植物や微生物など幅広い生命に共通した現象だ。

 何らかの理由でオートファジーがうまく働かなくなると、細胞の中に異常なタンパク質などのごみがたまる。大隅氏の研究後、こうした異常が積み重なると、病気の原因になることが詳しく分かってきた。

 大隅氏は酵母を使ってこの現象を詳しく調べ、働いている遺伝子も次々に特定した。人が病気にならずに健康を維持できる仕組みにも関係していることが分かり、新たな研究の扉が開いた。がんやパーキンソン病、2型糖尿病など、さまざまな病気に関わる生命現象を解明したことが高く評価されたため単独受賞となった。