被害女性との父親が明かす「いじめ防止法」の無力な実態

2016年08月19日 09時00分

 子供を持つ親にとっては看過できない問題――。いじめ防止対策推進法が施行されて9月で3年になる。現場では「いじめに敏感になった」という意見も出ているが、実際の運用は効果的とは言い難い。東京の多摩地区のキリスト教系私立高校でいじめを受け、登校拒否になった女子生徒(当時)は現在大学1年生だが、心の傷はいまだに癒えていない。被害者の父親(60代後半)は、いじめをやめさせようと関係各所に掛け合ったが、同法が現場で全く運用されていない現実を、まざまざと感じているという。

 いじめ被害者の女子生徒が原告(未成年のため法定代理人は両親)として、被告の私立高校の校長に計500万円の損害賠償を求める裁判が昨年から非公開で行われており、今も係争中だ。

 高校時代、被害者は集団いじめを受け「死にたい」と日記につづる日々を送った。病院で「抑うつ状態。加療を要する」と診断された。

 被害者と父親にとって裁判は最終手段で、仕方なく起こしたもの。裁判に至るまで被害者と両親は、加害者たちの保護者、学校、校長、警察、市、都、文部科学省など関係各所に、いじめを相談したが、具体的に対処してくれたところはなかった。

 そもそも、いじめ防止対策推進法は、2011年に大津市の中2男子生徒がいじめを苦に自殺したのをきっかけに、防止対策を徹底するため与野党の議員立法で制定された。いじめを「当該児童と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」と定義している。

 同法は13年9月に施行。学校には、いじめ防止対策基本方針の策定と対策組織の設置を義務づけた。学校には文部科学省や自治体への報告が義務づけられており、調査組織を設置して被害者側に適切な情報提供をしなければならない。しかし、いじめを放置しても、学校に対して罰則はない。

 父親は「学校にいじめを訴えたが、学校の調査結果は『いじめはなかった』。学校のブランドイメージを落とさないために、いじめを隠蔽したのではないか」と語る。

 そこで警視庁の少年センターに相談したところ「ここはカウンセリングをするところで、学校に立ち入るとか連絡をするところではありません」。法務局人権擁護委員会に相談すると「私学はガードが堅くて大変で」と及び腰。提訴後に再び相談したところ、同委員会の返答は「係争中の案件は調査できません」だったという。

 診断書を持参して地元の警察署に被害届を提出しようとしたが、娘が長時間の事情聴取に耐えられなかった。

 父親は「警察職員の中には『血を流したり、骨を折らないと、いじめかどうか分からない』と話す者もいた。暴行、傷害沙汰までにならないために、そして自殺させないために制定されたのが、いじめ防止対策推進法なのに…」と語る。

 市にいじめ防止に関する条例があったが、市の教育委員会は「私学への運用を規定していない」と対応。市の子ども家庭支援センターは「私どもは話を聞くだけなんです。権限がないんですよ」と返答。文部科学省に相談したところ「東京都に高校を調査するよう連絡した」という。

 父親は「都が高校に報告書提出を要請するも、高校からの報告書提出は約90日後。その報告書は『いじめはなかった』という内容だった。しかも、都は学校の報告書だけを信じて、娘に出された『抑うつ状態』との診断書を信用してくれない。大学に行っても、娘がなかなか回復しないこともあり、つい最近、別の病院にセカンドオピニオンをもらったところ、やはり高校時代のいじめによるPTSDと診断されました」と怒る。

 都私学行政課は「いじめ防止対策推進法で役所ができることは、学校に調査報告を出させ、その報告を自治体の長に上げるところまで。現行の法では、役所はいじめの有無を判定できないし、加害者・被害者の白黒を付けることもできませんし、学校に指導する権限もないのです」と答えるだけだった。

 何のためのいじめ防止対策推進法なのだろうか。法改正が必要になりそうだ。