【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】ベトナムは対米国戦争前、フランス植民地軍と激しく戦い、撃退。その転換点がディエンビエンフーの戦い(1954年)だ。中国、ソ連のバックアップを受けたベトナム軍は、フランス軍を包囲作戦で追い込み敵将を捕獲。ベトナムは大勝し、フランスのインドシナ支配が終わった。

 ベトナム北西部、ラオス国境近くの町ディエンビエンフーには、今でもフランス軍が最後まで立てこもった陣地や塹壕、慰霊碑、資料館など“戦争の爪痕”が残るが、それ以上に衝撃的なのが夜だ。

「ローカルな風俗街が広がっている。グエン・チー・タン通りという道の左右には、ゲストハウスの看板がズラッと並んでるが、これはすべて売春宿。歩いてると『マッサージ、マッサージ』と声がかかる」とは、北部の首都ハノイに駐在する商社マン。

 客の多くはこの一帯でインフラ関係の仕事に従事する中国人のため、客引きは極東系の顔を見ると「ニーハオ」と声を掛けてくる。またこの通りでは、中国で精をつけるときに食べる犬鍋の店もいくつか営業している。

「体を売っているのはベトナム人ではなく、ベトナム北部からラオスにかけて住む少数民族、ターイ族といわれる。女性は髪を思いきりアップにして頭の上でだんごにまとめ、網をかぶせた“鏡餠”のようなヘアスタイルだからすぐ分かる。一般のベトナム人に比べて貧しいといわれ、性産業に従事しなくちゃならないケースがあるそうだ」(前出の商社マン)

 繁華街には風俗店があるし、日本人経営のクラブなども多いから誤解している人も多いが、ベトナムは売買春に厳しい。南部の最大都市ホーチミン、ハノイでは摘発が頻繁にあり、過去には日本人逮捕者も出ている。外国人の場合、罰金に加え、強制出国処分となり、その後のベトナム入国は難しい。ただ、地方都市のディエンビエンフーは取り締まりが比較的緩く、インドシナ戦争の聖地は今や“性地”になっている。

 この町の市場でもターイ族たちが山岳地帯の特産品を売っているが、名物はなんと芋虫を漬け込んだ酒。瓶の中にびっしり芋虫が詰め込まれており、かなりグロい。ターイ族の50代男性によれば「とにかく勃つ。これで毎日晩酌しているが、持続力も硬度も若いころと変わらない」という。

 他にも食用の生きた大ヤモリや、フランス領インドシナ時代の硬貨、ベトナム戦争のころ米兵が愛用していたジッポーライターなど歴史的遺物も土産品で売られている。いろんな意味でカオスな街なのだ。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。2年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。