ロシア・シベリア西部ヤマロ・ネネツ自治管区で炭疽菌(たんそきん)の感染が広がり、この1か月の間にトナカイ約1500頭が死に、ヒトへの感染は今のところ確認されていないが40人超が入院しているという。

 当初、トナカイの大量死は熱波が原因とみられていたが、死んだトナカイを調べた結果、炭疽菌に感染していたことが確認された。ロシア農務省は、約75年前に何らかの理由で炭疽菌に感染し死んだトナカイの凍結死骸が暑さで溶けて感染源になったと推定。現地にはロシア軍の細菌兵器特殊部隊が緊急派遣された。

 炭疽菌はオウム真理教が生物テロのために培養していたことでも知られる殺傷能力の高い細菌だ。国際テロ専門の青森中央学院大学の大泉光一教授は「炭疽菌は空から散布すれば少量でも大量殺害が可能な非常に致死率の高い細菌。炭疽菌の製造は難しいが、シベリアから炭疽菌が外部に漏れて『IS』(過激派組織イスラム国)などの手に渡れば、細菌テロに悪用されかねず、対処には相当慎重にならなくてはいけない」と指摘する。

「ソ連崩壊当時、ソ連の核物質をヨーロッパのテロリストが入手しようとした経緯がある。まず、炭疽菌感染拡大のニュースが世界中に配信されていること自体、危機感がない。(事態収拾にあたる)担当者がテロリストに買収されて横流しでもしたら大変です。ロシア当局は感染個体を焼却処分するなどの対応をしっかり取り、終息宣言まできちんと情報公開して報告する義務がある」(同)

 折しもISは先月31日、動画投稿サイト「ユーチューブ」でプーチン大統領の殺害を予告し「兄弟たちよ、ロシアでジハードを決行せよ」と戦闘員らに呼びかけたばかりだ。

 大泉教授は「ロシアにはイスラム過激派も多い。細菌テロは脅威を与えながら一度に大量殺人を行うというISの目的にもかなっている。悪用の危険性にさらされないよう厳重管理を徹底しなければ、ロシアだけでなく日本も含め周辺国も生物テロの可能性を無視できなくなる」と警鐘を鳴らした。