南シナ海陣取り合戦で割れるASEAN

2016年07月31日 09時00分

 【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議が南シナ海問題でモメた。ベトナム、フィリピンなども領有権を主張する島々を、中国は一方的に実効支配し軍が駐留。これに対しフィリピンがオランダの仲裁裁判所に提訴し、中国の権利を否定する判決が下ったが、「この事実をASEAN会議の声明に盛り込むべし」と息巻くフィリピン、ベトナム、それに反対する議長国ラオスと親中国のカンボジア…これが対立の構図だ。

 25日、結局は中国に気を使う形で声明は見送られたが、最後まで反中姿勢を崩さなかったのがフィリピン。首都マニラの日系企業に勤める地元民は「南シナ海に眠る天然ガスも必要だが、それ以上に海洋国のわが国にとって漁業は何より大切。中国船はフィリピン領を侵犯し、我々の漁船に放水、発砲するなど傲慢な態度を繰り返してきた」と憤る。

 民間シンクタンクによる調査では、フィリピンの中国に対する信頼度は2年間で24%も下落。6月に就任したばかりのドゥテルテ新大統領も、選挙期間中は「中国が造った人工島に俺が水上バイクで行って、フィリピン国旗を立ててやる!」とほえた。が、実は本人は中華系の家系で、大統領に就任し過激なトーンがいくらか下がったことが今回の“妥協”につながったとも言われる。

 議長国ラオスは「地域の安定のため中国に配慮を」と求めた。それもそのはずで、今回の会議会場は、2012年のASEM(アジア欧州会議)に合わせ、中国が仕切って建造した。ラオスに詳しい記者の解説。

「首都ビエンチャン南部、メコン川を挟み対岸はタイというこのエリアの開発権をもつのは中国。経済力のないラオスでは国際会議やスポーツ大会などもできず、アジア諸国の中で肩身が狭かった。そこに中国が、巨大なハコモノを造ってやったというわけ。議長国とはいえラオスも中国には頭が上がらない」

 フィリピン案に猛反対したカンボジアはというと、30年以上にわたり統治しているフン・セン首相は、父親が海南島出身の華僑。中華系で、妻も海南島系の華僑だ。独裁的なポル・ポト派から寝返った経歴をもつが、以降は明に暗に中国共産党と“個人的な”関係を築いてきたと言われる。

 同首相は仲裁裁判所の判決をいち早く批判し、中国支持の声明を発表。対して中国は「感謝」を示し、双方は異例の親密ぶりだ。なお中国や日本メディアはノータッチだが、フランス国際放送によると、フン・セン声明に対する謝礼として、中国政府はカンボジアに6億ドル(約640億円)の支援を約束したという。

 そのカンボジアと歴史的に不仲なのがベトナムで、たびたび戦火を交えている。反中国を掲げるベトナムへの意趣返しという面も、カンボジアとしては強かったようだ。日本ではあまり知られていないが、実はベトナムも中国に負けじと南シナ海の島々の埋め立てを進め、緊張をあおっている。

 どの国も一筋縄ではいかないのだ。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。2年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。