【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】フィリピンの人気リゾート・セブ島から、フェリーとバスを乗り継ぎ、丸1日。サンゴ礁に囲まれたシキホール島はダイビングの聖地だが、ひそかに“黒魔術の島”としても知られている。

「日本にいるフィリピンパブのオネーチャンにこの島のことを聞くと、みんな怖がる。『絶対に行っちゃダメ!!』と言うくらい呪われた島。自分も行ってマニラに帰ってきたら、交通事故に2回遭った。『島でお守りを買わなかったからだ』と同僚フィリピン人に言われた」とはマニラの日本語情報誌の男性だ。

 聞けば、その島の呪いを解くためだけに島を再訪し「アンティン・アンティン」という赤い十字のお守りを購入。以来、男性は不幸に見舞われていないという。

 周囲80キロほどの島の海岸線沿いにいくつか街があり、宿泊施設が並ぶ。観光客と地元民の出会いの場的なディスコなどもあるが、スピリチュアルスポットも点在。ケガの治療に良いといわれる癒やしの泉、大量のホタルで燃えているかのように見える場所、そして魔術師たちが暮らす島中央のサンアントニオ村など。

 この村には高名なヒーラー(治療師)が何人かいるが、とりわけ腕が立つと評判のマリアナさんを訪ねた。

「日本人が来るのは初めてだよ」と笑顔。得意としているのは“ほれ薬”の調合だという。

「島に自生する20種類以上のツタや香草を、雨水に漬けて作るの。島に伝わるおまじないをしてね。これを体に振りかけると、魅力がアップして人に好かれるようになる。仕事もうまくいくようになるわ」。ライターほどの小瓶入りで500ペソ(約1200円)だ。

 体の不調を察知し、治療するヒーラーもいる。

 ジェネドさんは女子高校生のころから祖母に秘伝を授かり「ボロボロ」というヒーリング術を学んできた。これは島に代々伝わっているが、今は彼女ただ一人が使えるという。

「体の悪いところが自然と分かるの」。丸い石と水の入ったコップにストローをさし口に含むと、彼女は患者の背中や肩口、おなかをまさぐる。ボロボロボロと音を立て、丹念に患部を探る。石はヒーリング術を編み出した祖父が、河原で拾ってきた特別なもの。「ここが悪い」という箇所で、念入りに悪いモノをストローで吸い上げる。「ほら、これ」と、コップの中にはどこから出てきたのか、白い藻のようなものが浮かぶ。これが体の毒素だという。

 この心霊治療を受けに、フィリピン中から患者がひっきりなし。料金は患者の意のままで「あそこのマリア様にささげてくれれば」(ジェネドさん)という寛容さだ。

 治療後は何やら体が軽くなったようで、気分も爽快。十字のお守り効果は不明だが、帰国後は平穏に過ごしている。そしてほれ薬はというと、購入後、複数の女性に言い寄られる機会が…。恐ろしいほどの効き目だった!? 

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。2年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。