マレーシアで言論弾圧騒動

2016年03月20日 09時00分

【アツいアジアから旬ネタ直送「亜細亜スポーツ」】電波停止発言で高市早苗総務相(55)も散々だが、マレーシアでは今、政府によるメディア弾圧がリアルに起きている。

 事の発端は、ナジブ・ラザク首相(62)の汚職疑惑。政府系投資ファンド「1MDB(ワン・マレーシア開発)」からナジブ首相の個人口座に7億米ドル(約794億円)もの巨額のカネが送金されていると、米経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」が報じた。

 首都クアラルンプール在住の駐在員が明かす。「市民はネットを駆使して情報を集め、SNSで連絡を取り合い、デモを繰り返した。一方、政府側は首相を批判する政治家やジャーナリストを逮捕するなど、普段は平和な国とは思えない危険な空気を感じたことも」

 急先鋒に立ったのは、ネットメディア「ザ・マレーシアン・インサイダー」だ。2008年の開設以来、政治・経済をはじめ、各分野で精力的な取材を続け、フェイスブックでは「いいね!」を42万も集める人気ニュースポータルサイトとなった。ナジブ首相の汚職疑惑でも一貫して政府に批判的な姿勢で、その後、反政府デモに大きな影響力を与える存在といわれるようになった。

 これを脅威とみた政府は2月末、強硬措置に出る。マレーシア通信マルチメディア委員会(MCMC)が突如、同サイトへのアクセスを遮断したのだ。表向きの理由は「ネットワーク設備やサービスの不適切な利用」だが、言論弾圧であることは明らか。

 プロバイダーによってはその後もサイトや公式フェイスブックにアクセスできたが、更新はなし。業を煮やした地元ネット市民は、ナジブ氏の公式フェイスブックに殺到。疑惑への釈明をすべきと書き込んだり、大量の罵詈雑言や絵文字を連投し“大炎上”した。

 ナジブ首相を守る側も黙ってはいない。ネガティブな書き込みを徹底削除し、同時にツイッターとフェイスブックで「#respectmypm(われわれの首相を尊敬する)」というハッシュタグをつけ、発信を始めた。このタグは先週初めごろから、マレーシアのツイッター・トレンドで上位に位置し続けている。

 そんななか「ザ・マレーシアン・インサイダー」は14日、活動停止とサイト閉鎖を突如発表。運営側エッジ・メディアグループは、サイト閉鎖について「商業上の理由」と言葉を濁したが、何らかの形で広告主に圧力があったことを示唆した。

 これを受け、編集者による最後の記事をシェアする動きがフェイスブックで広がり、刻々と拡散が進んだ。再開を求める意見であふれたが「ここに書き込んだら政府に逮捕されるのでは」という不安、ナジブ首相を北朝鮮の独裁者・金正恩第1書記になぞらえる書き込みも目立った。そして同日深夜、トップページがスタッフの集合写真に切り替わり、サイトはネット上から消滅。フェイスブックだけは残り、メッセージが続々書き込まれている。

☆室橋裕和(むろはし・ひろかず)=1974年生まれ。週刊文春記者を経てタイ・バンコクに10年居住。現地日本語情報誌でデスクを務め周辺国も飛び回る。2年前に東京へ拠点を移したアジア専門ライター。