東日本大震災から5年がたったが、被災地の復興はまだ道半ば。東京電力福島第1原子力発電所の周辺には、帰還困難区域が指定されたままだ。避難している住民に行った復興庁の意向調査では「元のところへは戻らない」と答えた住民が増えている。それらの住民が新天地として求めるのは周辺の大都市だ。それにより周辺都市では土地の値段が高騰。避難住民と地元住民であつれきも生まれている。フォトジャーナリスト郡山総一郎氏がリポートする。

 帰還困難区域とは放射線量が高いので避難を求めている地域のこと。福島県の浪江町、双葉町、大熊町、富岡町にまたがっている。大部分が浪江町だ。復興庁は避難住民に帰還の意向を聞いている。最新の聞き取りで浪江町の住民らは「戻らない」が48%。浪江町の避難住民らは18・1%が仮設住宅に住み、無償の借り上げ住宅が32・4%、持ち家が30・9%となっている。仮設に住んでいる人の方が少なくなっている。


 被災地取材を続ける郡山氏が、よく耳にするのがカネの話だという。


「福島の内陸部にある福島市や郡山市、南部にあるいわき市の土地の値段が高騰しているというのです。郡山市では『ひと坪30万円になった』なんて言う人もいたくらいです」。この3都市では2014年ごろから土地の価格が上がってきている。


 原発周辺や津波被害のあった住民たちが新しい生活の場を求め、近隣の大都市に移り始めている。その結果、需要が高まり土地の値段が上がる。


「かつて住んでいた場所はインフラがそろっていないし、近所の人たちももういない。5年という時間がたち、新天地での生活も始まっている。戻らないという選択もやむを得ない。今、帰る帰らないで、住民と行政がもめているところもあります」(郡山氏)


 避難住民の新生活を支えるのが東電からの補償金だ。1億円を超えるケースもあるという。
「だいたいの数字ですが、避難住民が4人家族だったら、7000万円以上のお金が補償金として入ってくる。精神的苦痛を与えたということで1人当たり月10万円です。これがまとめて払われるからこんな巨額になるんです。そういう話は当然、周囲の住民の耳にも入ります。だから避難住民の車がパンクさせられたり『ここから出て行け』という落書きをされたりなんて話は以前からありました」(同)


 補償金によってまとまった金額を手にしたからこそ、避難住民は新天地で家を購入。それにより土地の値段が高騰する。そのことをもとから住んでいる住民は迷惑に感じてしまうのだ。
「避難住民には土地を売らないというところもあります。これは地元住民からのクレームでそうなったと聞いてます」(同)


 土地だけでなく、マンションやアパートも避難住民でどんどん部屋が埋まっていく。家賃も上がる。


「地元の人が住むところまでなくなってきた。いわき市では地元の新婚カップルが新居を探そうとしたら、もうどこもなかった」(同)


 あれだけの災害、しかも原発事故という理不尽な出来事で土地を追われただけに、それ相応の補償金があるのは当然だ。だが、まとめて支払われたため巨額になり、いがみ合いになってしまった。


「同じ被災者といっても住んでいた場所で補償金の額が違う。ほんの100メートル家の位置が違うだけで、額が変わるから、仲良かった近所の人たちとも疑心暗鬼になることもある。嫌みを言われるなど、地域のコミュニティーが壊れてしまうケースもある」(同)


 補償金によって起きた経済格差がねたみを生んでしまう。また、巨額の補償金で新天地に家を買えば帰還する気持ちはなくなる。


 先述の復興庁の意向調査では医療や教育の環境、介護・福祉サービスに不安を抱えるゆえに戻りたくないと答えた人が多い。インフラの充実と同時に補償金のあり方も問われている。