白昼の暴走で、かねて指摘されてきた問題が改めて浮かび上がった。25日午後に起こった大阪・梅田の繁華街での乗用車暴走事故で、運転していた奈良市の会社経営大橋篤さん(51)と歩行者の50代ぐらいの男性が心肺停止の状態で病院に搬送され、同日に死亡が確認された。事故ではほかに重体1人を含む9人が重軽傷。大橋さんは急性疾患で体調が悪化し、車中で意識を失った可能性があり、病気と交通事故の関係を研究する専門家は警鐘を鳴らした。

「信号渡ったらボーン、ボーンと鈍い音がした。振り返ったら、反対側の歩道を減速する感じもなく、(人を)押していくような感じでハネていった。運転席のエアバッグも開いていた。花壇にぶつかって止まったが、人が間に挟まれてる感じだった」

 目撃者が恐怖の惨劇を語った暴走事故は25日午後0時半ごろ、大阪市北区芝田1丁目で発生した。阪急梅田駅とJR大阪駅の近くで、普段から人通りの多いスクランブル交差点。大橋さんの車は西側方向から交差点に入ると、減速しないまま幅3メートル足らずの歩道に乗り上げ、通行人をはねながら約40メートル先の花壇に衝突して停止した。近くには馬券を売るウインズ梅田があり「土曜や日曜やったら、もっとえらいことになっとった」という声も聞かれた。

 現場にはブレーキ痕もなく「運転している人は意識がないようにも見えた」との目撃談から、大橋さんの体調に何らかの異変が起きた可能性も考えられる。本人のものとみられるツイッター投稿によると、大橋さんは事故直前まで阪神高速道路を走行。大阪府警は高速を降りた後、心臓などの急性疾患で体調に異変が起き、意識を失った可能性もあるとみて、当時の状況を調べている。一部報道では、大動脈の内層が割けて血流に変化が生じ、死亡率の高い「大動脈解離」の可能性が指摘されている。

 大橋さんは約5年前まで奈良県立高校の教諭で工業を教えていた。かつての教え子の一人は「暴走なんて絶対する人じゃない。本当なのか」と信じられない様子で話す。それだけに、事故ではますます突然の体調悪化が疑われる。

 運転中に心臓や脳の病気を発症してコントロールできなくなり、交通事故が起きるケースは珍しくない。

 警察庁によると、2014年に発生した交通事故は57万3842件。運転手の急病、発作が原因の事故は209件で、このうち心臓まひや脳血管障害を発症したケースは、てんかんの発作と同数の計52件に上る。死亡事故では原因が心臓まひと脳血管障害が計7件、てんかんは0件だった。

 こうした数字を踏まえ、滋賀医科大の一杉正仁教授(法医学)は「てんかんの発作による事故が注目されがちだが、危険性は特定の病気に限らない」と警鐘を鳴らす。

 愛知県瀬戸市で11年10月、小学1年生や教員ら40人が乗ったバスが市道から転落した事故は、50代の男性運転手の内因性くも膜下出血が原因だった。運転手が死亡したほか、女性教員2人が重傷、児童ら37人も軽傷を負った。

 13年7月にも三重県亀山市の高速道で、大型バスの40代の男性運転手が走行中に突然意識を失い、ガードレールに接触。死因は急性大動脈解離だった。

 事故と病気の関係はかねて問題視されてきた。12年に発生したプロドライバーの健康状態に起因した事故で、脳と心臓の病気が約4割を占めることが国土交通省の調査から明らかになり、話題を呼んだこともある。

 一杉教授は「高齢ドライバーが増える中、万全の体調で運転することは、交通ルールを守るのと同じぐらい大切なのに、啓発や教育が不足している」と指摘した。