軽井沢バス転落事故 運転手2人体制の穴

2016年01月18日 07時00分

 長野・軽井沢町で15日未明に起きた大型バスが国道バイパスから転落し、運転手2人を含む14人が死亡し、26人の負傷者が出た事故。死者10人以上の交通事故は、1996年に兵庫で11人の犠牲者が出た衝突事故以来の大惨事となった。長距離バスの安全対策は改善されていたハズだが、なぜ悲劇は繰り返されるのか。次々と明らかになるバス運行会社の法令違反から浮き彫りとなった長距離バスのあしき実態とは――。

 

 

 バスは時速50キロ制限のところをオーバースピードで左カーブに突入し、急ハンドルを切ったために車体が傾いたとみられる。道路にはタイヤ痕が片側1本しか残っておらず、車体は傾いたままの片輪走行でガードレールに猛スピードで突っ込み、道路から約5メートル下の斜面に転落した。


 格安スキーバスツアーは都内から長野や新潟のスキー場に深夜発日帰りプランでは、リフト券付きで9800円からの破格プライス。事故を起こしたバスには大学生を中心に10~30代の若者39人が乗車していた。尾木ママで知られる教育評論家の尾木直樹法政大教授(69)のゼミ生10人も乗車しており、尾木氏は「ゼミ生は仲が良く、休みを楽しもうとしていたのに…。こんな事故を起こす会社は許せない」と胸を痛めた。


 ツアーは旅行会社「キースツアー」(東京都渋谷区)が企画し、バスは「イーエスピー」(東京都羽村市)が運行していた。イーエスピーは運転手の健康診断未受診や業務前後の点呼記録の不備、新人運転手への適性検査を行っていなかったなどとして、13日に国交省からバス1台を20日間の使用停止とする行政処分を受けた矢先の事故だった。


 バスの運行指示書にルートの記載はなく、既に目的地に到着し業務が終了したことを示す運転手の押印があったという。また義務付けられているシートベルト着用を指示するアナウンスを一度もしておらず事故当時、就寝中だった乗客の多くは座席から投げ出され頭部を激しく損傷し重篤な結果を招いたとみられる。


 乗務していた運転手は65歳と57歳のコンビだった。防災アナリストの金子富夫氏は事故の最大の原因は運転手の“高齢化”にあると指摘する。


「長距離バスの運転手は過酷で若い人がやりたがらずに高齢者ばかり集まる。今回のようにツアー会社の下請けの中小・零細のバス会社は社会保険など人件費がかからない年金受給者を積極採用しているところも多い。負担が大きい長距離バスは、せめて60歳で定年とすべきでしょう」


 確かに60代&50代コンビに深夜の長距離走行は体力や反射神経が落ちるために事故のリスクは高まる。さらに事故時にハンドルを握っていた65歳の運転手は、先月イーエスピーに入社したばかり。運転手歴は12年あったというが、近距離の小型バス専門で、大型バスでの長距離運転は慣れていなかったとみられる。


 金子氏は「バス7台を所有している会社で運転手が13人だったということは、書類上は監査を通る報告をしているだろうが実情は相当過酷な労務環境だったとみて間違いない」と指摘。65歳の運転手は健康診断をまだ受けていなかったことからも健康管理はずさんで、過酷なシフトを強いていたとなれば居眠りや突然の持病を発症していた可能性も高い。


 国交省は2012年に群馬県藤岡市の関越自動車道で7人が死亡したバスツアー事故以降、夜間運行する運転士の乗務距離を400キロ以内に制限し、それを超える場合は交代要員の配置を義務付けている。


 だが、この“2人体制”も全く機能していないのが実情だという。「2時間ごとに運転を代わっていたというが、運転しない方は運転席の足元にある寝室で仮眠をとるのです。2人体制で安全を担保しているというのは見せかけで、健康状態の急変や居眠り運転に気づける状態でなければ、実質は1人体制と変わらない」(金子氏)


 キースツアーの福田万吉社長(38)は「(ツアー価格は)安くはするが安全面を怠ったことはない」と繰り返したが、運行を丸投げしていたバス会社がずさんな管理体制となれば、結局は“格安”最優先でしかない。業界全体で安全第一の体質を見直さない限り、また悲劇は繰り返されてしまう。