インドネシア政府が先月末、ジャワ島の高速鉄道建設計画で、中国の高速鉄道方式を採択する方針を示した件は日本政府や経済界に衝撃を与えた。だが、現地の関係者からは「インドネシアの選択は至極当然だった」との指摘も上がっている。

 インドネシア政府は中国側から「インドネシア政府の意向に沿い、財政負担や債務保証を伴わずに事業を実施できる」との提案があったことを表明。日本は事業が頓挫し、資金回収が滞るリスクを考慮し、その意向は受け入れなかった。日本円で約6358億円に上る事業費を中国から政府保証なしで調達可能なのかという現実的問題はあるが、インドネシアとしては結果的にカネで中国に決めた形だ。

 現地の日系企業で働く男性はこう語る。「インドネシアは国がインフラ整備に金をかけようという意識が想像以上に低い。在来線や有料道路の整備も国の規模に全く追いついていないという指摘が何年もされている。大げさに言えば、なくてもいい高速鉄道に金をかけるという選択肢は選ばなくて当然でしょう」

 インドネシアに対し、日本はこれまでも道路整備の支援や、古い鉄道車両の譲渡をしてきた。「特急電車の一等車両ですら、日本の古い車両が使われていたりする。当然、車両自体のトラブルは少ないから安全性には疑いを持たない。ある意味では、今まで日本が支援してきたことで『外国の鉄道=どれも安全』という意識がすり込まれてしまった」(同)。安全性を大きな売りにしてきた日本にとっては、皮肉な結果だ。

「インドネシアでは昔から、自動車やバイクの無免許運転が多く、仮に見つかっても警官への袖の下でなんとかなる文化。さすがに近年は徐々に改善され、何年か前にはJKT48が無免許運転撲滅キャンペーンをやったが、まだ安全性重視の意識は低い。鉄道の安全性などと言われても、ピンと来ない人が多い」(別の現地在住邦人男性)

 背景を考えれば、日本はかなり分が悪かったようだ。