“開戦前夜”の電撃合意だ――。一触即発だった韓国と北朝鮮の高官会談が25日未明、ようやく合意に達した。韓国と北朝鮮が行っていた高官会談は緊張緩和で合意し、25日未明に終了。北朝鮮が4日に韓国領で起きた地雷爆発について遺憾の意を表明し、韓国が25日正午(日本時間同)に拡声器を使った北朝鮮向け宣伝放送を中止することが合意の柱となっている。北朝鮮は前線地帯に宣言した「準戦時状態」を解除する。緊張緩和となる南北関係だが、合意に至る過程は緊迫感に満ちていた。

 発端は今月4日、韓国兵2人が南北軍事境界線沿いの非武装地帯で、北朝鮮軍が埋めたとみられる地雷で負傷したこと。この対抗措置として韓国は、北朝鮮に向けた拡声器放送を11年ぶりに再開した。

 案の定、ブチ切れた金正恩第1書記の下で北朝鮮は20日、軍事境界線沿いに設置された拡声器目がけて砲弾を発射。放送をやめなければ「軍事的行動を開始する」と通告し、21日には同境界線付近に「準戦時状態」を宣言した。韓国の朴槿恵大統領(63)は、再び軍事挑発があった場合、断固たる措置を取るよう軍に指示した。

 北朝鮮といえば、軍事的挑発を繰り返した上で、韓国と協議の場を設けて譲歩を引き出す“瀬戸際外交”がお家芸。そのもくろみ通り、22日から南北の高官を板門店に集めて協議を行っていた。

 地雷爆発と宣伝放送を中心に、双方の主張は真っ向対立。一歩間違えれば第2次朝鮮戦争となってもおかしくない綱渡りの交渉だったという。

 平壌情勢に詳しい人物は「朴大統領も“金ファミリー”のやり方は熟知しており、今回は北朝鮮に謝罪を強硬に求め続けた。その裏には、このところ正恩氏の側近だった人物が次々と韓国に亡命している事実がある。亡命者の証言などから、正恩体制は長くは持たないと判断しており、先月大統領府で開かれた非公式会議では『南北統一は来年にも起きるかもしれない』と発言している」と舞台裏を明かす。

 崩壊寸前とタカをくくっていたようだが、一方で“手負いの獣”ほど怖いものはない。コリア・レポートの辺真一編集長は「正恩氏はプライドが高く、ナメられるのを一番嫌う。自分に歯向かった叔父の張成沢国防委員会副委員長を処刑するくらいですから、いかに恐ろしい人物か。交渉が長引けば、威嚇のためにもう1発(砲弾を)ぶっ放しただろう。それをきっかけに局地戦に突入する可能性は十分あった」と話す。

 事実、北朝鮮は自国の潜水艇の7割に当たる50隻を出撃させ、国境付近に通常の2倍の数の砲兵部隊を動員。特殊部隊も極秘裏に展開していた。

「戦争になったら軍事力で大きく上回る韓国が圧勝するという意見があるが、とんでもない。韓国に亡命した北の軍人はみんな『北朝鮮が勝つ』と断言している。彼らは『先端兵器はないが、我々には武器を使うハートがある』と言う。韓国には徴兵制はあるが、彼らはせいぜい2年足らずで元の生活に戻る。かたや北朝鮮の兵士は命がけ。戦場で名誉の死を遂げれば、彼らの家族が国から手厚く保護される。全員が特攻精神を持っている」とは辺氏。

 この日合意した内容は、双方の主張が反映された形となっている。

 半島事情に詳しい人物は「ある意味、どちらの顔も立てた形。こんなことは珍しい。それほど『戦争』の2文字がリアルに差し迫っていたのだろう」と推察する。

 北朝鮮としては、合意直前に韓国が来月3日に中国・北京で予定されている「抗日戦争勝利記念行事」の軍事パレードへの部隊派遣を見送ったことも大きかったようだ。

 派遣見送りの背景について、韓国軍は米韓同盟への配慮に加え、軍事パレードが「抗日」を掲げていることを考慮したと説明している。

 日本の公安担当者によると「正恩氏は、朴大統領が北京で開催される式典に出席して、韓国と中国が急接近することを嫌がっていたんです。高官会議の“裏テーマ”として、朴大統領の中国行き取りやめを求め、韓国側がそれをのんだ可能性もある。もしかしたらこれが北朝鮮側の合意の条件だったことも十分に考えられます」。

 どちらにしても最悪のシナリオは回避されたようだ。