韓国で中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルスが猛威を振るう中、日本にも上陸しそうな“新たな脅威”がある。国立環境研究所主席研究員の五箇公一氏は「猛毒のファイアーアント(ヒアリ)が間もなく国内に入ってくるのでは」と懸念している。すでに死亡報告が出ているマダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)も要注意。昨年、流行したデング熱も併せて同氏に聞いた。

 南米原産のヒアリは、針こそ小さいものの攻撃的で大群となって襲い掛かってくる。かまれれば、ハチに刺された時のようなアナフィラキシー症状(急性アレルギー反応)を引き起こす恐れも。米国では過去に年間8万人が被害に遭い、約100人を死亡させた。

 もともと米大陸にしかいなかったヒアリは21世紀以降、南米の経済発展に伴って、ニュージーランドやオーストラリアなど太平洋沿岸各国にも生息するようになった。現在は日本の隣・台湾や中国南部にまで“侵攻”している。五箇氏は「外来種はどこから入って来るかわからない。経済的につながりがあると、いつでも入ってくる可能性はある」と指摘する。

 巣に近づいてきたものは無機物、有機物を問わず、何にでも襲い掛かる攻撃性を有する。五箇氏もかつて、米国・フロリダで調査していた際、実際ヒアリに刺された。幸いにして大事には至らなかったが、腫れは1か月引かなかったという。

 わずか5年足らずで南米から台湾まで伝わったヒアリ。一度、入ってくると、各国は対応に頭を悩ませることになる。

 五箇氏によれば、農業大国のオーストラリアは7年間で2000億円もの防除費用を投じ、ようやく根絶させた。台湾は年間最高で14億円以上を投じた年もあったが、いまだ根絶には至っていないという。

 ヒアリは春から夏にかけて増殖し、夏に活動のピークを迎える。ちょうどこの時期に猛威を振るい始める。なんとか水際で食い止めなければいけない。
 一方、すでに日本国内で発生が確認されているのが、2013年以降、国内での致死率が30%を超えるSFTS。ウイルスを媒介するマダニは野山や民家の周辺など、吸血源の動物がいるところに生息する。

 広島県総合技術研究所副主任研究員の島津幸枝氏は「マダニは成虫で3ミリ、幼虫は0・5ミリ程度。皮膚に吸着されてもかさぶたかと思って気づかないことも多いので、素手で触って確認するのが確実」と説明する。

 マダニは3日~1週間皮膚に吸着。入浴しても取れないこともあるそうで、野山に入ったり、庭の草むしりをしたりする際は、長袖長ズボンなど事前の対策に加え、事後も用心する必要がある。

 昨年流行したデング熱はどうか。厚労省によれば、昨年8月から同10月31日までに160人の患者数を記録した。国立感染症研究所の小林睦生名誉所員によると、ウイルスを媒介するヒトスジシマカは年平均気温が11度以上の地域に生息。今年もすでに日本各地で発生している。

 今年も不安になるが「ヒトスジシマカは卵で越冬するものの、これまでに1年目のデング熱流行が起こって次の年にも起こったという事例はない。心配しなくてよいと思います」と小林氏。少なくとも昨年の“残党”に関しては今のところ気にしなくてよさそうだ。