ロシア軍が撤退したウクライナ各地で民間人に対する残虐行為が次々と発覚している。首都キーウ(キエフ)近郊のブチャやイルピン、ホストメリなどでは多くの民間人の遺体が発見された。両手を後ろ手に縛られ撃ち殺された人や無残に戦車でひき殺された人、女性子供も容赦なく虐殺されていた。レイプも行われていたようだ。全容は明らかになっておらず、今後さらに被害者が増える可能性もある。

 ウクライナ側は「ジェノサイド(大量虐殺)だ」と非難し、ロシア側は「フェイクニュースだ」と反論しているが、情報機関やメディアによってロシアの主張の矛盾点が指摘されている。

 一部では、ロシア軍の“蛮行”がFSB(ロシア連邦保安庁)によるものだとの情報もある。FSBは旧ソ連のKGB(ソ連国家保安委員会)の流れをくみ、ロシアの諜報活動や犯罪対策を行う機関として知られる。元KGB諜報員のプーチン大統領も1998年から99年にかけて第4代の長官を務めていた。

 旧KGBなど独自のネットワークでロシア事情に詳しい元警視庁公安部出身で日本安全保障・危機管理学会インテリジェンス部会長の北芝健氏は、旧KGBは残虐さで恐れられていたと話す。

「制服軍事部隊を持ち、チェコなど征服された土地で畏怖されてきました。スラブ民族はおしなべて格闘好きで、特にロシアやウクライナの当たりは戦闘的文化が強く、コサックの末裔も多いといわれています」

 その上で、FSBについて「その数は35万人ともいわれ、ロシアンマフィアとしてスネに傷を持つオリガルヒ(新興財閥)をもうまく操ってきた。現在はアレクサンドル・ボルトニコフが長官を務めているが、日本でも勤務経験のあるセルゲイ・ナルイシキンSVR(ロシア対外情報庁)長官とプーチン指揮のもとに合体して、かつてのKGBに戻る流れです」と話す。

 FSBはウクライナだけでなく、シリアやチェチェンなど多くの紛争地域で今回のような蛮行に及んでいるという。

 20世紀までの戦争の惨劇が今なお繰り返され、人間の愚かさをまざまざと見せつけられているが、この残虐性はいったい、何なのか。

「ギリシャの都市国家の頃から続く領土拡張や同盟、宗教の下の団結、他を圧しての上位の生活希求、版図拡大、膨張などが主因ですが、男性ホルモンの活性アンドロゲンであるテストステロンが力信奉の根底にあるのと、獣肉食が強く関わっているという医師の見立てもあります」(同)

 いずれにせよ、FSBの仕業であれば、プーチン大統領の意向が強く反映されている可能性が高いということになる。だが、日本をはじめ国際社会が期待する国際刑事裁判所(ICC=オランダ・ハーグ)による戦争犯罪の捜査は難しいとみられている。

「ウクライナからの申し出があれば捜査は可能だが、首謀者がロシア国内にいる限り何もできない。ロシアのネベンジャ国連大使もFSB主導の虐殺を知っていた上で、ICCが何もできないと見透かして『ウクライナの偽装だ』と言っている」(同)

 プーチン大統領が考えを変えない限り、蛮行は続くのか…。